ヒートショックプロテイン(HSP)という物質をご存じだろうか。傷ついた身体の細胞を補修するべく体内から発現するもので、近年、大いに注目を集めている。このほど山本化学工業では同社が開発したバイオラバー素材を活用することで、このHSPを常温で大幅に増加させる方法を実用化できたと発表した。

 現代社会はストレス社会――。そう言い替えても良いほど、現代人は日々の生活の中でさまざまなストレスを受けて生きている。これらの外的要素によって、水分を除けば、ほとんどがタンパク質でできている私たちの体内細胞は傷ついている。これらの傷は細胞の正常な働きを妨げ、さまざまな病気の原因となっているのだ。これらを修復し、細胞を再生してくれるのがHSPである。

 身体にとっては救世主とも言えるHSPだが、これを体内から発現させるには、病院などで体温を約40℃以上にまで上げる熱エネルギーを用いた温熱療法が必要だとされてきた。この方法では体温を通常から約5℃も引き上げなくてはならず、体力の消耗は避けられない。治療を受けられるのは一定の条件を満たした人たちに限られていた。

 しかし、近畿大学医学部の植村天受教授らとの共同研究により、山本化学工業ではバイオラバー素材を活用した場合、体温が0.36〜1.0℃上昇しただけでHSPの発現が可能となることを実証した。マウスを対象にした実験結果では、バイオラバーを使った全身温熱治療を施すと、HSPの発現率がが1.5〜1.75倍に増加するという。加熱も電気も一切使用しない方法で、HSPが発現できるのは、同社によると「史上初」だ。

 バイオラバーには光エネルギーである赤外線を用いることで体を温める効果があることは、これまでも当コーナーで紹介してきた。内服薬とは違い、体の外から素材を当てる使用法のため、副作用などのリスクも少ない。今回の研究成果により、HSPの発現にも役立つと認められたことで、体力のない方、高齢者、小さな子供たちにもバイオラバーの用途は増えそうだ。

「バイオラバーを使うことにより、何らかの病気にかかっている患者さんのみならず、一般の人が傷ついた細胞を回復させ、健康を増進する目的でHSPの発現ができるようになります。これは多くの人々に喜んでいただける画期的で新しい方法です」
 そう山本富造社長も胸を張る。既に山本化学工業では世界23カ国で特許を出願し、うち日本を含む北アメリカ、ヨーロッパ、オセアニア、東南アジアの13カ国で認定を受けた。これを踏まえて今後は臨床試験が行われ、その結果に基づいて医療機器としての申請を検討するステップに入る。

 HSPは一般人のみならず、体が資本のアスリートたちにとっても大切な物質だ。これまではバイオラバー素材を着用することで、体が温まって血流が改善し、ケガの防止やパフォーマンスの向上につながる点が認められてきたが、これからは運動後の早い疲労回復にもつながる効果が期待できる。
「アスリートはもちろん、一般にスポーツを楽しんでいる方も運動をして負荷をかければ、体の細胞は少なからず傷ついています。バイオラバーを着用することで、HSPが活性化すれば正常な細胞の回復を促してくれます。つまり疲労回復やコンディション維持にも役立つというわけです」

 これまで「山本化学工業=競泳水着やウェットスーツ」というイメージが強かった。だが、バイオラバーは、どんな競技のいかなるレベルのアスリートにも役に立つ素材である。「これまで、いろいろな競技でバイオラバーを使っていただいて“良かった”との反響を多数いただいてきました。今回の結果でエビデンスのあるものとして、多くの皆さんに使用していただけるものになったと思います」と山本社長は話す。医療面、スポーツ面で広く貢献したいとの山本化学工業の思いはひとつひとつ現実のものになろうとしている。

 山本化学工業株式会社