武尊、万感のラストマッチ「みんなで格闘技界を盛り上げましょう」とリング上で叫ぶ ~ONE~
アジア最大級の格闘技団体ONE Championshipにおける日本大会シリーズの幕開けとなる『ONE SAMURAI 1』が29日、東京・有明アリーナで行なわれた。メインは現役ラストマッチと明言した武尊(team VASILEUS)とロッタン・ジットムアンノン(タイ)とのフライ級キックボクシング暫定王座決定戦。5ラウンドTKO勝ちを収め、昨年3月に1ラウンドTKO負けした相手にリベンジして自らの花道を飾った。
アトム級ムエタイ世界タイトルマッチは王者の吉成名高(エイワスポーツジム)がソンチャイノーイ・ゲッソンリット(タイ)を判定で破り、初防衛に成功した。フライ級MMA世界王者の若松佑弥(TRIBE TOKYO MMA)は2ラウンドTKO負けで王座陥落。バンタム級キックボクシング世界タイトルマッチで王者のジョナサン・ハガティー(イギリス)に挑んだ与座優貴(team VASILEUS)は判定負けで王座奪取はならなかった。
笑顔あり、涙ありの武尊らしさ全開の“引退試合”だった。
対戦相手は因縁のロッタンだ。ONEとの契約も彼と闘うことを望んでのもの。一度はケガで対戦が流れ、昨年3月にようやく実現した一戦は1ラウンド1分20秒で屈辱のKO負け。この日を現役最後の試合と定め、リマッチに臨んだ。前日計量時にはなかった赤い前髪。Krush時代は後ろ髪だったが、赤い髪の武尊に懐かしさを覚えた人も少なくないだろう。これについて、武尊はONE Championship日本語公式Xにこう答えている。
「KrushもK-1も初めてベルトを獲った時、毎回赤髪だった。今回、ONEのベルトを獲るんで、赤にしようかな、と。原点回帰です」
1万人が集まった会場からの武尊コール。花道に主役が登場すると、一気にそのボルテージは上がった。緊張感の伴った表情の武尊。リングロープにまたがると、両手を振って観客を煽る。そしてロッタンの登場を待った。
ゴングが鳴ると、じわりじわりとプレスをかける武尊。ガードを固め、キックで削る。武尊というと、“殴り合い上等”のイメージがあるが、「自分が強かった時の戦いを思い出した。殴り合いたいが、興奮を抑え、丁寧に削ってから殴ることを意識した。応援してもらっているみんなに勝ちを、ベルトを届けたかった。だから自分と闘った」と冷静に試合を進めた。
第2ラウンドに試合が動いた。武尊の左フックがロッタンのアゴ付近を襲う。尻もちをついたロッタンはスリップをアピールしたが、ダウン判定は変わらず。さらに畳み掛ける武尊は右のストレートの連打から、最後は左ストレートで2度目のダウン。時折笑顔で打ち合う姿は武尊の真骨頂だ。
3ラウンド以降はロッタンも前蹴りを駆使して武尊を遠ざける。それでも武尊は前に出続けた。ロッタンの攻撃を受けながら、武尊は笑顔を見せた。それは連打を食っても、ロープ際に追い込まれても。これに対し、ロッタンに笑顔はない。結末は最終、第5ラウンドに訪れた。武尊コールに背中を押されるように前進する。咆哮しながらプレスをかける姿は自分自身を奮い立たせるようにも映った。ワンツーでロッタンを後退させ、ロープ際でのラッシュで3度目のダウンを奪った。
仕留めにかかる武尊は大振りになるも、ロッタンをロープ際に追い込み、猛ラッシュを仕掛けた。腰を落としたロッタンとの間にレフェリーが割って入り、試合を止めた。劇的なTKO勝ちで会場は興奮の坩堝に。武尊も感情を爆発させた。恒例のコーナーからのバク宙も披露。リング上のインタビューで「もうなんかいっぱい言いたいことあったんですけど、本当嬉しいしかないです」と話し、「ロッタン選手も試合を受けてくれて本当にありがとうございます! ロッタン選手がいなかったら、こんな最高な引退試合できなかったんで、ロッタン選手にも拍手をお願いします」と因縁の相手に感謝の気持ちを述べた。
そして、会場のファンに向け、心からの叫びを口にした。
「このONE SAMURAIだけじゃなくて、日本の格闘技界、世界の格闘技界、これから絶対もっと盛り上げていくんで、盛り上がっていくんで。みんな、僕が引退してもこの格闘技の熱、今日のこの歓声、この熱は、絶対、これからのファイターたちにも力になる。ONEだけじゃなくて、K-1、RISE、KNOCK OUT……日本にはいっぱい団体ありますけど、どこの団体がすごいとかじゃないんですよ! 格闘技がすごいんですよ! みんなで立ち技格闘技を盛り上げましょう! こんなんで終わらせちゃダメですよ! みんなでやりましょう! 僕も引退後でできること何でも手伝うんで! 格闘技の熱、もう1回取り戻しましょう! 東京ドームやりましょう!」
インタビュー終了後、もう一度、マイクを取り、言葉を紡ごうとしたが、マイクの音声は途切れていた。時刻は22時を過ぎており、会場の都合でストップされていた。それでも少し待って武尊は肉声で叫んだ。
「僕は元々、格闘技の才能全然なくて、運動神経も全然よくない。そんな僕でも世界チャンピオンになれました。だから夢を持っている人、絶対諦めないでください。こんな僕に格闘技界を引っ張らせてくれて、本当にありがとうございます」
観客が拍手と声援で応えると、武尊はさらに続けた。
「僕以外にも最高のファイターは日本にも、世界にもたくさんいます。これから格闘技界、みんなで盛り上げましょう。ここでストップしちゃダメなんです。次に引っ張る選手が出てくるまで、それまでファンのみんなで盛り上げてください。よろしくお願いします」
改めて惜別のメッセージを送った。
「本当に今日まで格闘家としてリングに立たせてくれて、闘わせてくれて、支えてくれて、そのおかげここまで来れました。本当にありがとうございました。今日、僕はこれでリングを降ります。今日このベルトを獲れたのは、僕が今日まで格闘家として続けられたのは、今日来てくれるお客さんだったり、応援してくれたファンの人たちのおかげです。この暫定王者戦というすごく貴重な試合を、引退する選手に組んでくれた。批判もあったし、いろいろ言われましたけど。僕は本当にこのベルトを獲れたのは、今日来てくれたお客さん、応援してくれたみんなのおかげだと思ってます。 すごい勝手ですけど、このベルトは次の格闘技界を引っ張る選手に託したい。このベルトは今日はみんなのおかげでとれたベルトなので、プレゼントさせてください。大丈夫。絶対次の選手が出てくるから、それまでみんなよろしく! ありがとうございました!」

(写真: ©ONE Championship)
最後はリングにグローブとベルトを残し、花道に向かった。一時代を築いた格闘技界のヒーローは、ファンとの別れを噛み締めるようだにステージから去った。
大会後、彼に最高の花道を用意したONE Championshipのチャトリ・シットヨートンCEOは「彼は格闘技界のアイコン。たくさん苦労してきましたが、キャリアの素晴らしい締め方をでき、いいイベントになった」と総括した。第1回大会となった『ONE SAMURAI』は、この日15試合が行なわれ、7時間超の長丁場となった。日本人の母親を持つチャトリCEOは「まだ日本人の選手は少し未熟な部分もあるかもしれない。この大会は日本人選手を日本から世界に届ける意図でやっているので、どんどん強くなってほしいと思います」と日本人ファイターへの期待を寄せた。『ONE SAMURAI』は5年間で60大会開催予定。次回は8月8日にEBARA WAVEアリーナおおた(大田区総合体育館)で開催される。
新たな格闘技アイコンとして期待したいのが、“ムエタイの至宝”と呼ばれる吉成だ。
「武尊選手の試合は検査があってモニターで見させてもらうかたちになったんですが、やっぱりメインイベンターとしての役割を果たし、会場を惹きつけ、爆発させる力があるからスーパースターになれるんだなと感じました。自分は正直、今の試合でそうなれるかって言われたら、まだなれないと思うので、もっともっと実力をつけなきゃいけないと痛感させられました。格闘家なら口とかじゃなくて、試合のパフォーマンスで示すところに、僕は今日の武尊選手を見てカッコイイなと思いました。武尊選手が引退されてしまうということで、ムエタイのアイコンに自分もなりたいって思う。ONEのチャンピオンとして今回初めて防衛ができましたけど、まだまだ満足しちゃいけない。もっと自分の気持ちとか考え方とかも変えていかないと、そういったスターになれないと思った」
(文・写真/杉浦泰介)
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