今年もあと10日あまりとなった。
 スポーツ界、サッカー界にとって今年最大のイベントと言えば、やはりロンドン五輪だっただろう。4年前、国威発揚型に大きく逆戻りした五輪という大会は、今年のロンドンを機に再び新たな方向へと舵(かじ)を切った。06年のW杯ドイツ大会で明確に打ち出された、「試合以外の時間と空間をいかに充実させるか」という方向性である。
 たとえば、02年のW杯日韓大会は試合をつつがなく行うことに日韓両国があらゆる知恵を絞った大会だった。地理的、金銭的なことを考えればさして心配することもなかったフーリガン問題が大まじめに論じられたのも、徹底的にトラブルのタネは排除しておきたいという発想からきたものだったといえる。

 結果、大会中のトラブルはほとんどなかった。運営に関わった側からすれば、非の打ちどころのない大会だったかもしれない。だが、W杯を楽しみにしていた人間の一人として言わせてもらうならば、あれほど血の通っていない、金属的な冷たさの残るW杯もなかった。

 だが、4年後のドイツはまるで違っていた。完璧な90分を演出することに躍起となったのが日韓だったとしたら、ドイツが腐心したのは、試合時間以外の22時間30分をも充実させようということだった。大会後、訪れた人たちのドイツに対する印象は劇的に改善されたことが報告された。自分たちの凄さを叫ぶのではなく、ファンを、友人を増やしていこうとするスタンスが、今後、五輪を招致しようとする東京にもあればいいのだが。

 長年日本のサッカーを見てきた人間にとっても、ロンドン五輪は忘れがたい大会となった。ウェンブリーで行われた女子サッカーの決勝。たくさんの東洋人、しかし明らかに日本人ではない人たちが、頬に日の丸をペイントしていた。惜しくも決勝で敗れたなでしこだったが、彼女たちは、史上初めて日本人以外の人たちを虜(とりこ)にした日本代表だった。

 ちなみに先日、なでしこを率いた佐々木監督にお話をうかがう機会があった。その際、彼が言っていたのは「12月12日を世界サポーターズ・デーにできないか」ということだった。

「12月12日に世界中のサポーターが集まって何かできたら面白いじゃないですか」

 確かに面白い。伝説的ななでしこを率いた指揮官の思いつき、ぜひ来年から少しずつ広めていけたらなと思う。日本初の、世界的なサッカー・イベントが育つかもしれない。

<この原稿は12年12月20日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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