試合数の増加による過密日程が問題となる現代サッカーにおいて、3カ月の空白というのは考えうる最長のブランクと言っていい。
 代表とは比較にならないほど緊密な関係を築いているクラブチームでさえ、1カ月のオフをはさむとチームは別物になっていることがある。過去の日本代表においても、年明けの2月、3月は泣きたくなるほど低調な試合を見せられたことが多々あった。

 それだけに、昨年11月のオマーン戦以来となるAマッチに、ザッケローニ監督が期待したのはまず“さび落とし”だったはず。だとすると、いささか歯ごたえのなさすぎる相手だったとはいえ、十分に合格点のつけられる結果、内容である。

 おそらく、ファンやメディアの注目は3得点を奪った攻撃陣に向けられるだろうが、個人的に一番嬉(うれ)しかったのは吉田の復調ぶりだった。昨年11月のオマーン戦での彼は、プレミアリーグで所属チームが火ダルマにされていた影響をモロに引きずっていた。ロンドン五輪での自信にあふれたプレーは完全に影をひそめ、場違いな舞台に引きずり出された選手のようにナイーブになっていた。

 だが、サウサンプトンの失点が減り始めたことで、一度はたたき潰(つぶ)された自信も回復してきたのだろう。この日の彼は、ほぼロンドンでの吉田だった。相手の攻撃にまるで鋭さがなかったのは事実だとしても、決定機をほぼ与えずに1試合を乗り切るのは簡単なことではない。彼と日本の守備陣にとっては、最高のスパーリングができた90分だった。

 吉田の例をあげるまでもなく、あらためて痛感させられるのはサッカーにおける「自信の大切さ」である。ラトビアにもプレミアに所属している選手はいた。本田のチームメートもいた。にもかかわらず、日本の選手たちは完全に相手をのんでしまっていた。うまくいかない時間帯にもあわてることなく、少しずつ、少しずつ焦点を合わせていくしぶとさ、したたかさを持っていた。これは、過去の日本代表がついに持ち得なかった資質である。

 冷静に考えてみると、確かに海外でプレーする日本人選手は増えたが、その多くは、まだ所属チームのファンと日本人にしか知られていないレベルにある。そして、同レベルの選手の人数ならば、オーストラリアの方がいまだ圧倒的に勝っているのが現実だ。

 にもかかわらず、そしてブランク明けの試合だったにもかかわらず、この日の日本代表のメンタリティーは、いままでわれわれが所属していたクラスをはっきりと超えつつあるように感じられた。世界的な選手がほとんどいない時点でこれならば、日本人以外からもスターと認められる存在が複数出現した時はどこまでいけるのか――。そんな空想さえかきたててくれる一戦だった。 

<この原稿は13年2月7日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
◎バックナンバーはこちらから