いささか気の毒な気がする。もし日本がWBCで3連覇を達成していたら、こんなにも「なぜ、いま?」といった反応が出てくることもなかっただろうに。ともあれ、これで国民栄誉賞は4回続けてスポーツ界から生まれたことになる。
 長嶋、松井の両氏に限らず、スポーツ選手がこの賞を受賞する際に必ず言われるのが「国民に勇気を与えた」といった内容の言葉である。勇気は夢に置き換えられることもある。とにかく、この国にポジティブな効果をもたらした、ゆえに表彰するという考えが、国民栄誉賞の根っこにはある。

 ならば、勇気を与えてくれた存在を表彰するのと同じぐらい、いや、それ以上に大切になってくるのは、次の勇気を与えてくれる存在を育てることではないか。次の勇気を与えてくれる存在が出現しやすくなるような環境を作ることではないか。

 なでしこは国民栄誉賞を受賞した。では、女子サッカー選手たちが置かれている環境は、劇的に改善されただろうか。世界一を勝ち取る可能性をより高めるべく、国は何か力を貸しただろうか。
 毎回思うことだが、この国にはスポーツの現在に群がる政治家はいても、スポーツの未来を育てようとする政治家がほとんどいない。政治家が、ということは、つまり日本人が、ということである。女子ソフトボールの現状を見聞きするたび、その思いはさらに強くなる。

 日本プロ野球の未来は安泰だろうか。

 かつて、日本のプロ野球ファンにとって日本一は世界一とほぼ同じことだった。少なくとも、どこが世界一になろうと、それを気にする阪神ファンはほとんどいなかった。

 いまは、どうだろう。

 球場の規模、美しさ、選手の年俸……多くの点で日本よりも上の存在があることを、いまの日本人は知ってしまっている。そして、もっと問題なのは、ファンだけでなく、球団を運営する側からも、上の存在に追いつき、追い越そうとする気持ちが見えてこないことである。野球に限らず、これはサッカーについても同じことが言える。

 日本の資金力では無理――そんな空気が当たり前になった。
 だが、その一方で、この国には、競売にかけられた物件を45億円で落札する団体もある。宗教法人である。

 現状、日本のスポーツは世界とマネーゲームはできない。だが、宗教法人はできる。税制上の優遇処置を受けているがゆえにできる。一説によると、優遇処置が撤廃された場合、日本の税収は2兆円ほど増えるはずだと言われている。

 ちなみにこれは、バルセロナを40チームほど買える金額だが、さて、そういうスポーツ界を作るために汗を流そうという政治家はいないものだろうか。付け加えておくと、国民栄誉賞を獲得した宗教家は、いまのところ、ゼロである。

<この原稿は13年4月4日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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