「やっぱり」というのが正直な感想だ。
 今季からNPBで使用されている統一球の反発係数が現場への事前説明もなく、変更された問題が波紋を広げている。開幕から各球場を回っていて、「今季はボールが変わった」との声をあちこちから聞いていた。たとえば2年連続でセ・リーグのホームラン王に輝き、今季も既に21本塁打を放っているウラディミール・バレンティンは「思った以上に飛ぶ」と話していた。

 なし崩しボール変更の罪

 数字を見ても、異変は明らかだった。昨季と今季とでは1試合あたりのホームラン数がまるで違うのだ。
 2012年 1.02本
 2013年 1.48本(交流戦終了時)
 約1.5倍の増加である。こすったような当たりがそのままフェンスを越えたり、反対方向に流した打球がスタンドに飛び込んだりと、昨季までとは明らかに飛距離が違っていた。
 
 実際にプレーしている選手や、それをベンチから毎日のように見ている監督やコーチ、ファンまでもがボールの変化を感じていたにもかかわらず、NPB側は「ボールの仕様は今まで通り」とシラを切り通してきた。そして問題が発覚すると、加藤良三コミッショナーはボールに自らの名前が刻み込まれていながら、「変更は知らなかった」と釈明した。プロ野球の最高責任者として、いささか無責任ではないか。

「昨季まではボールが飛ばなさすぎた。今季はもう少し飛ぶように変えます」
 そう事前にNPBから一言あれば、各球団も選手も開幕前にもっと対応の手立てがあっただろう。ここ2年、“飛ばない”統一球に合わせ、球界では、いかに1点を奪い、1点を守り抜くかに主眼を置く野球がトレンドになっていた。いわゆる投手力を重視し、小技や機動力を生かした試合運びである。

 事実、一昨年のセ・リーグではチーム防御率トップ(2.46)の中日が、チーム打率が最低(.228)にもかかわらず、優勝した。昨年の巨人はリーグトップの102個の盗塁を決め、従来の強力打線に足を絡めて3年ぶりのV奪回を果たしている。しかし、今年のボールであれば、そういった野球ではなく、ランナーをためてドカンと点を獲るほうが勝利に直結しやすい。当然、ピッチャーの攻め方も変わってくるだろう。チームにはそれぞれのスタイルがあり、一朝一夕には変えられない。キャンプから“飛ぶボール”を想定した準備ができていれば、違ったペナントレースの展開もあり得たのではないか。

 打ち取ったと思った打球が予想以上に飛んでピッチングを乱したり、打った感触の違いにバッティングの感覚を狂わされた選手もいるだろう。何より、2年かけてようやく適応してきたボールを再び変えてしまったことで、「日本球界はバッティング向上のせっかくのチャンスを失った」と指摘する声もある。ミスタータイガースこと掛布雅之も、そのひとりだ。

「埼玉西武の中村剛也は統一球1年目の2011年に48本塁打も打っています。打ち方によってはボールを遠くへ飛ばせるんです。僕の現役時代、今でこそ狭い球場の部類に入りますが、大洋(現DeNA)が横浜スタジアムに移転した時、前の川崎球場だったら確実にスタンドに入っていたはずの打球が外野のフェンスにつかまった。そこで僕もバットの角度を変え、フェンスを越えるように工夫しました。このようにバッターには対応力があるんです。なぜ、もう少し待てなかったのか……」

“飛ばないボール”には球団の営業サイドから「ファンの中には“もっとホームランを見たい”という声もある」と不満があがっていたのは事実だ。その是非はともかく、なし崩し的なボール変更で振り回される現場はたまったものではない。

 初のCS進出へ期待かかる中村と廣瀬

 今季の交流戦はパ・リーグが80勝60敗4分と圧倒した。9年間の交流戦でパ・リーグが勝ち越したのは8度目だ。優勝したのも福岡ソフトバンクで、巨人(3位)以外のセ・リーグ勢は上位に入れなかった。おかげでパ・リーグは北海道日本ハムが借金5にもかかわらず最下位で、セ・リーグは広島が8つも負け越しながら3位に入る珍現象が起きている。

 結果、幸か不幸かセ・パともに交流戦を終えても混戦のまま勝負どころの夏場に突入する。パは首位から最下位までが8ゲーム差で、どのチームにも上位進出の見込みがある。セは巨人と阪神が2.5差で首位を争い、3位以下は離れているものの、広島から最下位のヤクルトまでは3.5差だ。借金10前後のAクラス争いとは興ざめだが、クライマックスシリーズ(CS)のシステムがある以上、3位に入ればポストシーズンの戦いに参加できる。その意味では、全球団にチャンスが残されていると言ってよい。

 セ・リーグではDeNAと広島が初のCS進出を果たせるかに着目したい。DeNAは主砲のトニ・ブランコがリーグトップの23本塁打、62打点と打線を牽引している。その陰で見逃せないのがベテラン中村紀洋の存在だ。今季は5月に2000本安打を達成。ブランコの後を打ち、リーグ4位の打率.328と好調だ。4番、5番が揃って好調ゆえに、相手のマークは分散する。それが結果につながるという相乗効果を生み出している。

 過日、中村に話を聞くと、「僕の感覚では去年の終わりごろからボールが飛ぶようになってきました」と明かしてくれた。統一球の打ち方に適応し、それが今季も継続できているというわけだ。
「今のボールは打つ時に力むと飛ばない。昔のようにヘッドを利かしてポーンと打つことが大事です。だから、僕のフォームも、ヘッドを走らせようと試行錯誤していた近鉄時代にまた戻ってきているんですよ」

 バットも35インチと他の選手より長く、これを目いっぱい持つ。変化球が多彩な現代野球では単にフルスイングするだけでは、率は上がらない。タイミングを狂わされても、長いバットでボールをつかまえられる技術の高さも中村が長く現役を張れる要因だ。

 豪快なイメージとは裏腹に、中村には繊細な一面もある。これまで対戦したピッチャーの球種にはじまり、配球の傾向、フォームの特徴、変化球を投げる際のクセなどを細かく書き込んだメモをファイルに入れているのだ。
「パソコンは使わず、全部手書きです。書くという作業が大事なんでしょうね。打席でも“これや!”と書いたことが思い出せますから。いろんなピッチャーのクセを書いていますからおもしろいですよ」
 イチかバチかではなく、確固とした根拠があるから迷いなくバットを振り切れる。交流戦では最下位だったDeNAだが、さまざまな経験を積んだベテランのバットは再浮上には欠かせない。

 広島も混戦を抜け出すには、打線がポイントになる。3位を争う他チームと比較してもチーム防御率3.51は一番いい。前田健太、ブライアン・バリントン、大竹寛と計算できるスターターがいる点は強みだ。一方で得点は207、チーム本塁打数は33とリーグワースト。盗塁こそ63個でダントツでトップも、機動力を十分に生かしきれていない。

 得点力を左右するのは、やはりポイントゲッターである中軸の働きだ。4番のブラッド・エルドレッドは長打力はあるが、確実性に欠ける。新外国人のキラ・カアイフエも未知数だ。助っ人頼みでなく、日本人でクリーンアップに固定できるバッターがほしい。

 現状を見渡すと、その役割を果たせるのは廣瀬純だろう。ここまで打率.308。エルドレッドが不在時にはずっと4番を打っており、4月にはプロ野球新記録となる15打席連続出塁を達成した。「ムダな力を抜き、センター中心に打ち返すバッティングをしている。バットの握りも柔らかく、どんなボールにも対応できている」と入団時の打撃コーチだった広島OBの西田真二も評価している。交流戦ではチャンスに打てず、ブレーキとなった試合もあった。この先も彼のバッティングがチームの浮沈に直結することは間違いない。

 楽天初優勝に大事な扇の要

 パ・リーグでは東北楽天に注目したい。交流戦で15勝9敗と勝ち越し、トータルの貯金は7個で2位につけている。4年ぶりのCS出場はもちろん、球団創設初のリーグ制覇も射程圏内だ。エースの田中将大が無傷の9勝をあげ、4番、5番にはアンドリュー・ジョーンズ、ケーシー・マギーと実績豊富なメジャーリーガーが座る。投打の柱がしっかりしていることが好成績の一番の理由だ。

 森山良二投手コーチは「昨年より田中も含め、決して投手陣は良くないが、野手が打ってくれるという安心感がプラスに働いている」と分析する。選手には厳しい星野仙一監督も、「よく頑張っている」とここまでの戦いぶりには満足そうだ。

 攻守における要役はキャッチャーの嶋基宏である。入団から当時の野村克也監督に3年間、徹底してリードを仕込まれた。「配球がひとつの型にはまりすぎ。無難にやっているうちは成長しない」と知将からは酷評され続けてきたが、その教えは本人にとって血となり、肉となっている。
「今、思えば、すべて僕の基礎になっています。たまに古いノートを見返すんですが、“あぁ、なるほど”と納得することがいくつもあるんです」

 ここ2年、低迷したバッティングも今季は打率が3割を超えている。それ以上に評価できるのが勝負強さだ。得点圏打率は.392でリーグ5位。先に挙げたように今季の楽天はジョーンズ、マギーの両外国人がクリーンアップで固定されており、ランナーがいる場面で下位打線にまわってくるケースが多い。そこで嶋が走者を還すのが、楽天のひとつの得点パターンになっているのだ。

 2011年の東日本大震災後には「野球の底力を!」というスピーチが感動を呼んだ。今年からは最年少で日本プロ野球選手会の会長に就任し、今回の統一球問題でもリーダーシップを発揮している。
「あのスピーチから僕の人生は変わりましたね。特に震災の年は、“口だけにならないように頑張らなきゃ”と自分でプレッシャーを感じすぎました」
 震災復興は道半ばである。被災地球団として今季こそ、との思いは誰よりも強いはずだ。

 楽天はCSに09年に1度進出しているが、嶋は野村の信頼を得られず、大事な終盤の戦いでベンチを温める機会が多かった。「もう、めちゃくちゃ悔しかった」と嶋は当時を振り返る。「名捕手あるところに覇権あり」とは野村の持論だが、楽天を頂点に導き、名捕手への階段を昇れるかどうか。チームにとっても嶋自身にとっても、「底力」をみせる夏がやってくる。

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【プロ野球、直近のカード】 ( )内は中継局

・6月21日(金)〜23日(日)
◇パ・リーグ
東北楽天 × 福岡ソフトバンク Kスタ宮城(21日は郡山、日テレプラス
埼玉西武 × オリックス 西武ドーム(テレ朝チャンネル2
千葉ロッテ × 北海道日本ハム QVCマリン(FOX bs238

◇セ・リーグ
巨人 × 中日 東京ドーム(21日は前橋、日テレG+
横浜DeNA × 阪神 横浜(21日は長野、TBSニュースバード[/b])
広島 × 東京ヤクルト マツダスタジアム(J SPORTS

・6月25日(火)〜27日(木)
◇パ・リーグ
北海道日本ハム × 福岡ソフトバンク 東京ドーム(27日は試合なし、GAORA
埼玉西武 × 東北楽天 西武ドーム(27日は大宮、テレ朝チャンネル2
オリックス × 千葉ロッテ 京セラドーム大阪(FOX bs238

◇セ・リーグ
東京ヤクルト × 横浜DeNA 神宮(フジテレビONE
中日 × 阪神 25日は富山、26日は金沢(27日は試合なし、J SPORTS
広島 × 巨人 マツダスタジアム(J SPORTS

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