おや、と思った。
「国内、海外も平等に扱いたいと思っている。海外に移籍すれば代表に入れるわけではない。それぞれのクラブ、リーグで活躍することが(代表入りへの)一番の近道と考えてほしい」
 8月29日、グアテマラ戦、ガーナ戦に臨む日本代表メンバーを発表する際、ザッケローニ監督はそう言ったという。至極もっともな言葉なのだが、これまでの選手選考の傾向を考えると、ほとんど自己否定ともとれる発言である。
 かと思うと、同じ場でザック監督はこうも言ったという。

「世界中から好きなDFを取ってこいと言われても大きく代えたくない」

 一方でどんなカテゴリーであっても結果を残した選手には代表への門戸は開かれているとし、一方では「代えたくない」という。一見矛盾しているようだが、そう言わざるをえなかった監督の気持ちもわかる気がする。

 柿谷は使える。豊田も面白い。スポニチ木本記者が指摘していたように、大迫もいよいよ覚醒しつつある。ここ数カ月、攻撃陣についてはJリーグからも戦力を見いだすことはできたが、残念ながら、同様のインパクトを与えてくれたディフェンシブな選手はほとんどいなかった。代わりになりそうな選手がいない以上は、いままでいた選手に自信を取り戻してもらうしかない。言ってみれば自由競争ではなく保護政策。信頼しているというポーズは、守備陣に対するザック監督の危機感の表れとみる。

 それだけに、直近に行われるグアテマラ戦とガーナ戦の持つ意味は大きい。

 前者はすでに、後者も6日の結果いかんではW杯予選敗退となるのだが、ここでも大量失点を喫するようなことがあると、チームの“底”が抜けてしまう可能性もある。保護政策もが効果なしとなれば、ザック監督に残された手段はリスクの大きい大リセットしかなくなってしまうからだ。

 言うまでもなく、サッカーに於ける守りはディフェンダーのみによって成り立っているわけではない。攻撃に守備陣の下支えがあるように、守備には攻撃のフォローが密接に関係している。だが、そんなことは百も承知しているはずのイタリア人から発せられた、守備陣だけに向けられた信頼のメッセージは、くどいようだが、日本の守りが危機的状況にあることを意味している。 

 今月の2試合、無失点を連続できるようであれば、ザック監督の“言葉の魔術”はひとまず効力を発揮したことになる。だが、相変わらずの守備決壊が続いた場合は――。

 本大会まではまだ若干の時間がある。ただ、これからの数試合、守備的な役割をになって出場する選手は、信頼の言葉を鵜呑(うの)みにせず、自分が当落線上にあることを強く意識する必要がある。

<この原稿は13年9月5日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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