ついにここまで来たか、というのが率直な感想である。元アルゼンチン代表のパブロ・アイマールが、マレーシアのジョホールに入団を決めた。現地報道によると、年俸は日本円に換算して2億円強だという。
 マレーシアリーグのギャラが日本人の想像をはるかに超えるレベルにまで高騰していることは以前にも書いた。東京が五輪を開催することになった20年は、マレーシアが先進国の仲間入りをすると宣言している年でもある。右肩上がりの経済成長が続く限り、この国のリーグの魅力は増していくことだろう。

 しかし、ここで疑問が湧いてくる。経済成長著しいとはいえ、日本とマレーシアの間にはまだかなりの経済格差がある。にも関わらず、なぜマレーシアはアイマールを獲得することができたのか。首都のチームでもない、日本が初のW杯出場権を勝ち取ったあの小さな港町のチームが、なぜ年俸2億を超える額を捻出できたのか――。

 いまのJリーグに、それも地方のチームに、選手1人のために2億円を出せる体力はない。今回の報道を受けて、ファンの中には「なぜ日本で取らなかった?」という声があがっているが、おそらくは取らなかったというよりは取れなかった、そもそも取ろうという発想がなかった、というのが現実だろう。身の丈にあった経営とやらを金科玉条としているうち、Jクラブの外国人獲得の姿勢は、恐ろしく消極的なものに変わってしまった。

 そして、Jクラブとマレーシアとの間には、決定的な違いがある。豊かな資金力を持つ個人オーナーの存在、である。

 いまのJリーグに、アブラモビッチはいない。現れない、のではない。なろうという意志と財力があっても、Jリーグが存在を許さないのである。

 欧州ではロシアのアンジ、ウクライナのシャフタル、ドイツのホッフェンハイムなど、オーナーの資金力をバックにのし上がる地方クラブが珍しくなくなってきた。マレーシアで起きているのも同様の現象である。マレーシア国内では「選手のレベルとギャラが見合ってない」という批判もあるようだが、思えば、発足当時のJリーグでも同じことは言われていた。

 いま、Jリーグは東南アジアへの放送権の売り込みを続けている。そのアイデア、方向性は評価したいが、いわゆる客寄せパンダは皆無に等しいリーグが、果たして、アイマールを生で見ているファンにとって、今後ますます世界のビッグネームを間近に感じるようになるファンにとって、魅力的なものなのかどうか。

 Jが内向きの理屈に縛られているうち、東南アジアは奔放に発展しようとしている。われわれが手にしているアドバンテージは、実は、決して大きなものではない。

<この原稿は13年9月19日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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