二宮: 今度は「那由多(なゆた)の刻(とき)」をロックでどうぞ。
宮澤: どれどれ……え? 本当に焼酎ですか!? まるでブランデーのようで、すごく舌に残る。余韻を楽しめますね。

二宮: これでよく晩酌するんですよ。
宮澤: 度数は、25度? もっと高いように感じるほど、濃厚な広がりがありますね。ぜひ、行きつけのお店にも勧めておきますよ。

 音楽家からボディビルダーへ?

二宮: 販促役まで買って出ていただき、ありがとうございます(笑)。ところで、ミシェルさんのお父さんはフランス人で、世界的なアコーディオン奏者でしたよね。音楽の道に入ろうとはしなかったんですか?
宮澤: やっていましたよ。でも、親父が厳しすぎたせいで、挫折したんです(笑)。

二宮: 音楽に対して厳しかったと?
宮澤: そうです。「何をやりたいんだ?」と聞かれて、「ピアノ」と言ったらしいんです。親父が練習している姿を見ていたので、子供心に気をつかったんでしょうね(笑)。すると、3日後くらいに、ピアノが家に届いた。もう学校から帰ってくると、おやつやジュースより前に、毎日マンツーマンで練習ですよ。

二宮: 音楽版・星一徹ですね(笑)
宮澤: 実は、兄貴も練習が厳しすぎて音楽をやめたんです。案の定、僕も厳しさに耐えられなくて、おふくろに「ピアノ教室に行きたい」とお願いした。ピアノ教室なら親父も来ないと考えたんですね。ところが、音楽家というのは仕事がない時は家にいることが多いので、僕がピアノ教室に行こうとした時に「どこへ行くんだ? 俺が送っていってやる」と。親父から逃げようと思ってピアノ教室へ入ったのに、親父が来て教室にも入ってくる。もう最悪でしたよ(笑)。ピアノ教室の先生より先に「ノー、ノー、ノー。セパサ、セパサ(それじゃない)」と後ろから言ってくるんです。それでピアノの先生から「お父さんに習ったほうがいいよ」と言われて、音楽の道はあきらめました(笑)。

二宮: アハハハ。それで、サッカーを始めたと?
宮澤: いや、音楽の次は、親父は僕をボディビルダーにしようと考えていたんです。

二宮: ええ!?
宮澤: ボディビルダーの雑誌を見せられて「オマエもこういう体になってみないか」と言われ、僕も「すごい」と興味を示してしまった。すると、また数日後にはダンベル、エクスパンダー、手作りの腹筋台となんでもありました。親父の監視のもと、筋トレ漬けの日々でした。小学2年生にして腹筋は8個に割れ、首も腕も筋骨隆々……小さい仮面ライダーですよ(笑)。

二宮: 音楽の次はボディビルですか(笑)。
宮澤: 結局、ボディビルダーへの道は、医者に止められたんです。ある時、僕が熱で寝込んでしまって、鼻血が止まらなくなった。そこで、診てくれた医者が驚いた顔をして母を呼び「息子さん、何て体をしているんですか。こんなことやっていたら危険ですよ!」と。それがきっかけで、親父が1カ月くらいの公演で家にいない時にやめたんです。

二宮: それで、サッカーを始めたわけですか。お父さんはサッカーには興味があった?
宮澤: ありました。僕がサッカーの大会で勝ち抜いていくと、一切仕事をやらなくなる。内容について口うるさく言われたものです(笑)。それもすべて、豊かな愛情からくるものでしたけどね。

 試合前に大ゲンカ!?

二宮: 口うるさい人と言えば、ミシェルさんはラモス瑠偉さんとも浅からぬ因縁がありますよね(笑)。
宮澤: よくご存じで(笑)。僕が大学生の時、読売クラブの練習に参加したんです。すると、僕はラモスさんにGKしかやらせてもらえなかったんです。他のブラジル人選手が「練習で学生が来ているんだから、これじゃ意味ないだろ」と言っても「いいんだよ! 下手なんだから」と。それが悔しくて、やっとフィールドとしてプレーした時に、読売の選手からボールを奪った。するとラモスさんが「どっちがプロだよ!?」と怒っていたのを覚えています(笑)。

二宮: 彼は熱い男ですからね
宮澤: 他にもありますよ。僕が大学を卒業して一番最初に声をかけてくれたのは読売だったんです。しかし、大学の監督の勧めもあって、僕はフジタ工業(現湘南)に入社しました。それでも、ずっとラモスさんから「読売に来い!」と誘われていたのですが、Jリーグが開幕する時に、僕は地元・千葉のジェフユナイテッド市原を選んだ。その後、プレシーズンマッチで読売とジェフが戦った時に事件が起こったんです。

二宮: 事件とは?
宮澤: 選手たちが入場をスタンド下で待っていると、「おい! おい! おい! おい!」と、ケガで欠場していたラモスさんが大声を上げて僕に近付いてきたんです。「オマエ、なんだこの野郎! 何やってんだ、脱げ!」って、ユニホームを引っ張るわけです。「脱げよ! ユニホーム違うだろ! こっち(読売)のユニホーム着ろ!」と(笑)。

二宮: カリオカらしいエピソードだなぁ(笑)。
宮澤: 「なんでウチにきて勝負しないんだ!」「僕もまだ国籍を変えられないし、試合に出られるところ選んだんですよ。それに千葉はホームタウンだったから」と言っても、ラモスさんは収まらない。もう審判は驚いちゃうし、周りについてるジェフの関係者も「ケンカが始まった」とてんやわんや。最後に「オマエみたいなの見たことないよ!」と言って、離れていきました。ありえないでしょう(笑)。それでも僕はラモスさんが大好きです。いろいろ相談もしましたし、僕の憧れですよ。

 ケガで逃した代表入り

二宮: ミシェルさんがフランスから日本へ帰化したのはいつでしたか?
宮澤: 93年の1月です。ハンス・オフト監督が日本代表を率いていた時ですね。それまでフランス側から認められなかった国籍変更の手続きが、やっと完了しました。またその頃、代表では柱谷哲司がケガをしていた。ですから、オフト監督は日本国籍になった僕を代表に呼ぼうとしたらしいんです。

二宮: 当時、日本の守備陣は層が厚いとはいえなかったですからね。
宮澤: 新聞には「秘密兵器」と僕のことが載っていたので、どうなるのかなと思っていました。ただ、哲(柱谷)が回復してきて、僕の代表入りの話はなくなったようです。

二宮: ミシェルさんは冷静な読みで相手を潰す、当時の日本サッカーでは異色のCBでした。
宮澤: 僕自身も他のCBとは違うと思っていました。左利きでもありましたからね。それをファルカン監督が見てくれていて、新生日本代表候補合宿のメンバーに選んでくれたんです。ファルカン監督は「若い選手しか選ばない」と言っていたので選出には驚きました。

二宮: なぜ、就任して間もなかったファルカンが、ミシェルさんを選出したんですかね?
宮澤: ある時、フジタでコーチを務めていたブラジル人のニカノールから「ファルカンにオマエのことを聞かれたぞ」と言われました。あと名古屋グランパスにいたジョルジーニョが「後ろにはミヤザワを立たせておけば大丈夫だ」とファルカン監督に言ってくれたらしいんです。

二宮: なるほど、日本にいる同じブラジル人の関係者から、情報を収集していたわけですね。しかし、ミシェルさんはケガで代表合宿を辞退してしまった……。
宮澤: その前からふくらはぎを少し痛めていて、ハーフタイム中に鍼を打ってもらっている状態でした。僕もまさか本当に選ばれるとは思っていなかったから、徐々に悪化しつつも試合に出続けたんです。でも、横浜マリノス戦でゴールを決めた後に、痛みがひどくなって途中交代。その2日後に日本サッカー協会から選出の連絡がきた。「1試合早く言ってくれたら、無理して試合に出なかったよ」という心境でしたね(苦笑)。

 引退を決意させられたゴール

二宮: 代表として戦うことはできませんでしたが、当時のJリーグには世界レベルの選手がたくさんいました。その意味ではやり甲斐もあったのでは?
宮澤: もちろん。テレビで見ていた存在ばかりでしたからね。エドゥ(元横浜F)が 40メートルのFK を決めたり、スキラッチ(元磐田)は DFがロングボールから目を切った瞬間に、とんでもないスピードでプレスをかけてボールを奪い、ゴールを陥れていた。もう、毎試合、とんでもない選手が相手でした。

二宮: 私はラモン・ディアスが印象に残っています。シュートを打つ足のふり幅が記者席からは速過ぎて見えませんでした。
宮澤: 実際に戦っている僕らでも見えませんでしたよ(笑)。ですから、僕も家に帰って、「スライディングでブロックしに行っているのに、なんでシュートが足に当たらないのか」と何度もビデオで研究しました。

二宮: 答えは?
宮澤: 要は、股の下を狙って打っているんですよ。ディアスはDFが滑り込こもうとしていることも、タイミングも全部お見通し。ビデオを見ると、シュートモーションに入ってから、スライディングしてきた僕の股下を、コースを変えて通していたんです。精度が少しぶれた時はファーサイドのポストをわずかに外れますが、そうじゃない時はみんな入る。僕は、ディアスには貢献しましたよ(笑)。

二宮: アハハハ。その後、 95年限りで引退されるわけですが、きっかけは?
宮澤: ベルマーレの野口幸司に決められたゴールですね。市原臨海競技場でのベルマーレ戦で、僕は野口にディアスと同じようなかたちでゴールを決められたんです。僕が遅れ気味でスライディングした瞬間に股の下を抜かれた。自分で言うのも何ですが、僕は読みがいい方だったので、「来る」と思った瞬間に滑ればシュートをブロックできていました。ところが、自分では止められると感じたのに、野口にコーンと逆サイドに打たれた。試合をまとめるために起用されたにもかかわらず、「股抜かれて打たれてる場合じゃないだろ」と情けなくなりました。

二宮: 守備職人としてのプライドですね。
宮澤: そのシーンをビデオで振り返って、「ああ、やめようかな」と考えました。 32歳の自分の遅さに驚いたんです。それで、体を鍛え直そうと考えたんですが、僕は毎日、股関節に鍼を打っていないといけないような状態だった。ハードなトレーニングをすると、翌日にプレーできなくなる。気持ちと体のギャップから、潮時かなと感じたんです。

 根性の入っている息子

二宮: ミシェルさんの夢を継ぐかのように、7月にはご長男の宮澤勇樹選手がJ2の松本山雅FCに入団して、親子Jリーガーとなりました。息子さんとお酒を飲むことは?
宮澤: それが勇樹は僕と同じ国士舘大学出身なんですが、今は先輩がお酒を教えることをしないらしいんですよ。

二宮: サッカーの方はどうですか?
宮澤: まだ、いろいろなことを学ばないといけませんが、根性は入っています。勇樹は、大学3年の時に出場機会を得て、 DFだけどゴールも決めていた。ただ、4年生になって出番が減り、最終戦でゴールを奪ったんですが、その時にヒザをケガしてしまった。ヒザにものすごく血が溜まっているのを見て、僕は正直、「終わったかな」と思いました。でも、病院で血を抜いてみると、靭帯は1本も切れてなかった。だから病院で「不幸中の幸いだな。これからどうするんだ?」と聞いたら、「やりたい」と。ただ、プロを目指すには体が細かったので「だったら体をつくりかえないとダメだ」とだけアドバイスしたんです。

二宮: それで、息子さんは?
宮澤: 3カ月くらい会わずに、次に見た時は「おお!」と驚くような体になっていました。それを見て、説得されましたね。そこから、いくつかのチームに練習参加させてもらい、松本山雅から契約の話をもらったんです。僕は「いいじゃないか。オマエなんか誰も期待していないけど、俺だけは期待しているから、やってみろ」と背中を押したかたちですね。

二宮: いい話ですねぇ。まだまだ話は尽きませんが、今回はこの辺で(笑)。今度はぜひ、ラモスさんもまじえて一杯やりましょう!
宮澤: ぜひ、楽しみにしています!

(おわり)

宮澤ミシェル(みやざわ・みしぇる)
1963年7月14日、千葉県生まれ。フランス人の父と日本人の母の間に生まれる。86年、国士舘大学卒業後、フジタ工業(現湘南)に入社し、翌年、プロ契約を結ぶ。92年、ジェフユナイテッド市原(現千葉)へ移籍。センターバックとして、冷静な読みと激しいプレーを武器にチームを支えた。93年に日本国籍を取得し、アジア大会日本代表候補に選出されたものの、故障のため辞退。96年に現役引退後は、メディアでの解説や講演など、幅広い分野で活躍。全国各地で学生を対象にしたサッカー指導も行っている。


★今回の対談で楽しんだお酒★[/color]

長期に渡り、樫樽の中で貯蔵熟成した長期貯蔵の本格そば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」。豊かな香りとまろやかなコクの深い味わいが特徴。国際的な品評会「モンドセレクション」2013年最高金賞(GRAND GOLD QUALITY AWARD)受賞。

提供/雲海酒造株式会社

<対談協力>
膳・菜・酒「塁」
「魚」と「野菜」をテーマとした新世代和食屋。宮城・気仙沼漁港や神奈川・三崎漁港など、直送で仕入れる魚は鮮度抜群! また秘伝のタレを使った「煮付け」も塁でしか味わえない逸品です。野菜も築地のほかに茨城の契約農家から取り寄せたりと「素材」にこだわっています。京都祇園で修業を積んだ料理長が手掛ける料理もまた必見です。個室も2〜50名様までと宴会はもちろん、大事な御接待にも対応できるようになっております。

東京都千代田区大手町1−7−2 東京サンケイビル地下2F
TEL:03-3276-2321
営業時間:
昼(月〜金) 11:00〜15:00(L.O.14:30)
夜(月〜金) 17:00〜23:00(L.O.22:00)
土・日・祝定休
>>店舗サイトはこちら

☆プレゼント☆
 宮澤ミシェルさんの直筆サイン色紙を本格そば焼酎「雲海」(900ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。ご希望の方はより、本文の最初に「宮澤ミシェルさんのサイン希望」と明記の上、下記クイズの答え、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、このコーナーへの感想や取り上げて欲しいゲストなどがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選発表は発送をもってかえさせていただきます。締切は10月9日(水)までです。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。
◎クイズ◎
 今回の宮澤ミシェルさんと楽しんだお酒の名前は?

 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

(構成・写真/鈴木友多)
◎バックナンバーはこちらから