これは詐欺である。
「王座統一戦」の看板に偽りありだ。
 観る者は、すっかり騙されていた。
 12月3日、ボディメーカーコロシアム(大阪府立体育会館)で行われた「WBA・IBF世界スーパーフライ級王座統一戦」リボリオ・ソリスvs.亀田大毅のことである。
(写真:亀田は敗戦のショックからか試合後の会見を行わず、公の場には姿を現していない)
 事の発端は、決戦前日の計量でWBA王者のソリスがウェイトオーバーしたことにあった。2度目の計量でも1.1キロのオーバー。タイムリミットまで、まだ1時間あったにもかかわらず、「もうダメだ!」とばかりにペットボトルに入った水、コーラをガブ飲み。この時点でリオスはWBA王座を剥奪された。呆れたチャンピオンである。

 異常事態に、この後、関係者の間で協議が行われ、メディアには次のように発表された。
(1)試合は予定通り行う。グローブハンディはつけない。
(2)亀田が勝った場合は、王座を統一。
(3)リオスが勝った場合は、両王座を空位とする。
(4)引き分けならば、亀田はIBF王座防衛。WBA王座は空位。
 この取り決めは当日のソリスvs.亀田戦のテレビ中継の中でもファンに伝えられていた。

 試合結果は周知の通り、リオスの判定勝ち。減量に失敗したことからもわかるように、リオスのコンディションは決して万全ではなかった。初回、ボディブローを喰らうと、いきなり苦悶の表情を浮かべたほど。だが、亀田にも、そんなリオスを仕留める技術がない。強打を恐れず、打ち合う勇気もなかった。結局、リオスが終始、老獪さを見せつける形でポイントを奪い、勝利したのだ。

 闘いが終わった直後に問題は起こった。
 IBFのスーパーバイザーであるリンゼイ・タッカー氏が、こう言ったのだ。
「IBFルールにより、(IBF王座に対しての)挑戦者であるソリス選手が体重オーバーしていたために、亀田選手の王座は、そのままです」
 事前の取り決めとは違う措置に、周囲は騒然となった。

 IBFの規則には次のような一項がある。
<王者が計量をパスし、挑戦者が計量をパスできなかった場合、王者は勝敗にかかわらず、王座を保持できるとの理解のもとで試合を実施する>
 
 だから、その規則に従うというわけだが、それでは決戦前日に発表された取り決め(リオスが勝った場合は、両王座を空位とする)はいったい何だったのか? ファンは、この一戦は王座統一戦であるがゆえに、敗者はいかなる理由があろうとも王座を失う……そんな特別ルールを用いた緊張感漂う一戦だと理解していたのだ。

 今回の一件、つまりは、こういうことだろう。
(王座統一戦ではなく、亀田は勝とうが負けようがタイトルを失うことのないノンタイトル戦に変更されたと発表すれば、ファンは興味を失う。観客動員にも、テレビの視聴率にも影響が出る。だから表向きは、亀田にもリスクのある闘いだということにしておこう)
 大会関係者が、そう考えたと疑わざるを得ない。

 これはファンに対する大きな裏切りだ。
 勝っても負けても、王座を失わないことは亀田陣営も本人も試合前から知っていた。観る者だけが知らされていなかったのである。

 ファンをバカにするにも程がある。
 大会関係者、そして「IBFのルールを熟知していなかった」と本当か嘘かわからない、また、あってはならないことを言い訳にする日本ボクシングコミッションにも猛省を促したい。

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー〜小林繁物語〜』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』(汐文社)ほか。最新刊は『ジャッキー・ロビンソン 〜人種差別をのりこえたメジャーリーガー〜』(汐文社)。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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