心を揺さぶられる熱い闘いだった。大晦日にはヘビーなほどに――。
 東京・大田区総合体育館で行われたWBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチ、内山高志vs.金子大樹のことだ。
(写真:内山のパンチを何度も浴び、金子の顔は大きく腫れあがっていたが倒れなかった)
 両国国技館で『INOKI BOM-BA-YE2013』(石井慧vs.藤田和之戦は、石井の判定勝ち)の取材を終えて帰宅。テレビをつけると、ちょうど試合が始まるところだった。生中継ではない、それに録画もしていたから、お風呂に入った後に、ゆっくり観るつもりだったが、思わず見入ってしまった。金子の闘いぶりに惹きつけられたのである。

 戦前の大方の予想は、内山有利。これまで7度の王座防衛を果たし、21戦20勝1分、そのうち17勝をKOで飾っているハードパンチャーの内山は、キャリア、パンチ力、テクニックいずれにおいても金子に勝る。内山より9歳若い金子は、世界初挑戦。私も早いラウンドでの内山のKO勝利を予想していた。

 だが、そうではなかった。
 初回から、金子はハードパンチャー内山に対し、勇敢に打ち合いを挑む。臆する様子は、まったくない。ポイントを奪われたであろうラウンドが続くが、それでも金子は“一撃”にかける闘いを続ける。

 そして10ラウンド、左右の連打をタイミング良く決め、なんと内山からダウンを奪ってしまった。結局はジャッジ3者とも7ポイント差と大差の判定で敗れるが、金子の闘いぶりは観る者を熱くさせた。

 ダウンを奪われても、その後、冷静に対処し、勝利した内山は、さすがである。だが、それ以上に、金子の勇気に熱くならずにはいられない一戦だった。2013年の年間最高試合に選ばれたことも十分に納得がいく。

 熱き試合。そこには必ずファイターの勇気が存在する。
「しょうもない世界戦もありましたけど、これがボクシングだという試合を見せてくれました」
 放送席で解説をしていた畑山隆則は、興奮気味に、そう話していた。

 私も同感である。
“しょうもない世界戦”が誰の試合であるかは言わずもがなだろう。ファンは、ボクサーから勇気を感じたいのだ。

 今年もボクシング界は観る者を熱くさせてくれるだろうか?
 強い相手と闘うことになる指名試合を前に逃げ出すように王座(WBA世界バンタム級)を返上、「4階級制覇を狙う」と都合よく吹く亀田興毅には期待できない。信じられない「勇気のなさ」だ。観たいのは「勇気ある」日本人同士の王座統一戦である。

 山中慎介(WBC世界バンタム級王者)vs.亀田和毅(WBO世界同級王者)、内山高志(WBA世界スーパーフェザー級王者)vs.三浦隆司(WBC世界同級王者)の早期実現を切に願う。

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー〜小林繁物語〜』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』(汐文社)ほか。最新刊は『ジャッキー・ロビンソン 〜人種差別をのりこえたメジャーリーガー〜』(汐文社)。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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