百里の道は九十九里をもって半ばとす、という言葉があるが、九十九里まできたとしても一里しか来ていない、と見るべきなのがサッカーにおける移籍話である。
 実体のない噂もあれば、関係者が交渉の材料とすべく、あえてリークしてくる場合もある。従って、現時点ではまだ白紙と見るべきではあるのだが、それにしても、久々に胸のときめくフォルラン獲得?のニュースである。
 プロスポーツとしての歴史が浅いJリーグは、プロ野球に比べていわゆるストーブリーグの話題提供が拙い。大物選手獲得の噂や、有望な選手の強引な引き抜きは、ファンにとって大いなる楽しみのはずなのだが…。日本のサッカーファンが、世界でも類をみないほど戦術やフォーメーションにこだわりをみせるのも、欧州や南米に比べるとピッチ外での話題が少ないからなのか、と個人的には思う。

 ただ、Jリーグから「身の丈にあった経営」を要求されてきたJのクラブからすれば、大物外国人選手を獲得して話題を作りたくともそんな出費は許されない、という面もあったことだろう。地道にクラブの足腰を鍛えることに専念しすぎたことで、近年のJからは興行としての華やかさが薄れつつあった。

 Jに大物外国人がさっぱりこなくなった一方で、お隣の中国や東南アジアでは、以前では考えられなかったスーパースターがプレーをするようになった。それだけではない。日本でも大学を卒業後、Jではなく東南アジアのクラブを選ぶ選手が増えつつある。ルーキー選手にとって、初年度のギャラはJよりもはるかに高額である場合があるからである。

 それだけに、たとえ獲得が失敗に終わろうとも、フォルランという世界的な、かつまだ十分にやれるスターの獲得に乗り出したセレッソの勇気と英断を、わたしは高く評価したいと思う。

 この契約は、セレッソだけでなく、縮む一方だったJリーグの意識をも変える一歩となりうる。多くのクラブが完全に失念してしまった、大物外国人選手がいることの強み、メリットが再び知られることになる。他のクラブが動かなければセレッソの独り勝ちに、追随するクラブが出てくればJに華やかさが戻ってくる。 

 セレッソのファンが心配していたのは、「柿谷の穴埋めか?」ということだろうが、それも杞憂だということが前日わかった。柿谷は残り、フォルランの加入が現実となれば、Jリーグ史上最強にして最も美しい2トップが完成するやもしれぬ。まだ一里の道しか来ていないとはいえ、個人的にはJリーグで初めて味わうストーブリーグの悦楽である。

<この原稿は14年1月16日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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