先日閉幕したソチ五輪、山本化学工業の製品を活用して本番に挑んだフィギュアスケートやショートトラックスピードスケートの選手たちはメダル獲得こそならなかったが、それぞれベストを尽くして健闘した。山本化学工業は既に、「2020年東京五輪で金メダル30個獲得を!」と6年後を見据えたプロジェクトをスタートさせており、今後も高機能製品を改良、開発して選手たちをサポートしていく。歩みを止めない山本化学工業のこの先の取り組みについて、山本富造社長に二宮清純が話を聞いた。

 五輪をきっかけに他競技にも広がりを

二宮: 今回のソチ大会では、フィギュアやショートトラックの選手たちが「メディカルバイオラバー」や「ゼロポジションベルト」を本番前の調整などで装着していたそうですね。
山本: ショートトラックは1日に何レースもこなした上で、勝ち抜いていかないといけない競技です。だから次のレースまでにいかに疲労を蓄積させないかがポイントになる。そこで国内の選考会からレースの合間に、足首やふくらはぎ、太ももにメディカルバイオラバーを着用してもらいました。これにより、赤外線の放射で筋肉を温め、着圧を与えることで血液循環を促して乳酸を早くエネルギーに転換させるサポートをしたんです。なおかつ、バイオラバーマットを敷いて、その上でマッサージなどを受けてもらいました。選手たちは実感として疲れの残り具合が違ったようで評判は良かったですね。

二宮: 海外のリンクは暖房がかかっていて室内は温かいと言われますが、それでも氷上は寒い。選手たちは筋肉を温めて動きやすい状態にしておかないと、よいパフォーマンスが発揮できませんし、故障の原因にもなります。
山本: 今回、テレビを通じてスケートの選手たちの本番直前の服装を見ていると、上はジャージなどを羽織っていても、下はコスチュームやユニホームのまま、というケースが目立ちました。でも、実際に本番で一番動かすのは足周りなのだから、本来はここが冷えないようにしなくてはいけません。そういった点は、我々のバイオラバーがお役に立てるのではないかと感じました。

二宮: ショートトラックでは同じ方向に回るため、遠心力で外側に振られて体のバランスを崩しやすい。ゼロポジションベルトでは、その矯正を試みたというわけですね。
山本: 選手たちはずっと左回りで滑っていますから、知らず知らずのうちに右側の骨盤が開いてくる。すると最短距離でコーナーリングをしようとしても、骨盤が開いているために右足が外側へ流れます。その分、スピードも落ち、後続の選手に抜かれるスキを与えてしまうんです。そこで選手たちに3カ月ほどゼロポジションベルトを使ってもらって、骨盤の位置を正常な状態に戻すとコーナーでロスのない滑りができる。長野五輪金メダリストの西谷岳文さんに話を聞くと、“エッジが効いて粘れるようになった”と選手の変化に驚いていました。西谷さんのようなトップ選手にもゼロポジションの考え方に興味を持っていただけたことは良かったです。

二宮: 西谷選手は現在、競輪でS級の選手です。競輪もコースを同じ方向に回りますから、効率の良い走りには骨盤の矯正は重要になってくるのでは?
山本: そうでしょうね。西谷さんによると「骨盤がずれていると左右の足のベタルを踏む力が変わってくる」とか。骨盤の角度が左右で異なるから、力の入り方が違ってくる。それが特に勝負どころでの走りには影響が出るそうです。西谷さんにも実際、ゼロポジションベルトを試していただく方向で打合をしました。ソチ五輪ではショートトラックだけでしたが、今度、スピードスケートの強化担当者ともお話をする機会を設ける予定です。

二宮: 体の軸がぶれるとパフォーマンスが落ちる。これはスケートや競輪だけに限ったことではないですね。
山本: フィギュアスケートを見ていても、ジャンプが失敗する際は体の軸がずれています。跳ぶ体勢に入る際、踏み切る足先がヒザよりも後ろにしっかり入って踏み込めている時は、体の軸と足先までがほぼ一直線になっている。たから真っすぐ高く跳べる。逆にそうなっていない場合は、きちんと跳べないので失敗の可能性が高いんです。軸がずれる要因に骨盤の開きが影響しているのだとしたらゼロポジションベルトを活用して調整すれば、ジャンプの成功率が高くなる可能性があります。

二宮: 競技経験者に聞くと、身長や体重などのちょっとした変化でボディバランスは変わってしまうそうです。それを調整するのが難しいと……。
山本: その点、我々のゼロポジションベルトは日常生活や練習の中で、動きながら骨盤を自然と正しい位置に持ってくる。骨盤矯正というとベッドに寝転がっている状態で施術をするものが多いのですが、人間は日々、活動をしている間に知らず知らずのうちに骨盤がずれていきます。だから、動きの中で骨盤の正しい位置をキープし、それを体に覚え込ませることが大切なのです。

二宮: 特にウインタースポーツは氷上や雪上など不安定な場所で競技を行いますから、ボディバランスをより重視する必要があるでしょうね。
山本: スキーにしろ、スノーボードにしろ、お役にたてる部分は大きいのではないかと思いますね。今回の五輪をきっかけに、我々の製品の良さを多くの選手に感じてもらって、徐々にいろんな競技に浸透していってくれればうれしいです。

 病気予防ではなく社員全員の健康増進へ

二宮: 五輪に出場するようなトップレベルのアスリートたちを縁の下で支えるのみならず、山本化学工業では、企業で働く一般の人たちの健康増進も考えた取り組みを始めたそうですね。
山本: 近年、“健康経営”という言葉が日本でもよく聞かれるようになってきました。「企業の持続的成長には、従業員の健康が不可欠である」という米国発祥の概念で、従業員の健康に配慮し、その増進を促す仕組みをつくることが、生産性向上にもつながるとの考え方です。

二宮: これまで日本の企業が実施してきた福利厚生を、一歩先に進めた考え方と言えますね。
山本: 企業の福利厚生といえば、かつては社内に運動サークルがあったり、休憩室の卓球台などで少し体を動かすことができました。大企業では社内運動会を開催していたところもあります。ところが時代の変化で、そういったものがどんどんなくなり、社員の健康はほぼ本人任せになっていました。ただ、近年は生活習慣病や、うつ病対策で、企業が従業員の心身の健康に留意することを求められる時代になっています。この流れで健康経営の発想が日本にも広がってきたのですが、まだ、その取り組みは十分とは言えません。

二宮: 具体的には、どのあたりが不十分なのでしょうか。
山本: 健康経営といっても、社内の分煙や定期的な健康診断の実施、ノー残業デーの導入といったレベルで止まっているところが少なくありません。検診でメタボリックシンドロームの兆候があった社員をジムに通わせて運動してもらう、といった仕組みをつくったところもありますが、一部の対象者だけでは会社から押しつけられている感覚を抱くかもしれない。もっと全従業員を対象にした積極的な健康経営に乗り出すことが必要になってくるでしょう。

二宮: 単なる病気予防といった段階から、社員全員の健康を増進させるトータルケアを行っていくことが大切だと?
山本: その通りです。そして、積極的な健康経営のサポートを我々がお手伝いできればと考えています。とはいえ、たとえばバイオラバーなどを社員全員に購入して配布するとなると、企業側もかなりの負担がかかる。そこで、月々、定額料金を支払っていただいて商品をリースする方式を始めたんです。

二宮: それだと企業側も導入しやすいですね。
山本: 会社にとっては負担が重くならない上に、社員には高機能製品が配られる。その製品を活用する意義や効果を説明して、会社に所属する間、ずっと使ってもらえれば、きっと喜ばれると思うんです。それが社員の会社に対する帰属意識にもつながっていくのではないでしょうか。

二宮: 従業員の健康が増進すれば、スポーツにも取り組もうという流れが加速する。それが、さらなる健康につながるという好循環が生まれてくるといいですね。
山本: 高齢化が進み、定年も延長される中、長く第一線で活躍するためには適度な運動が必要です。健康な高齢者が増えれば、医療費の削減にもつながっていきます。病院は病気の治療のみならず、積極的な健康増進に力を注ぐ方向になるでしょうし、スポーツジムやトレーニング施設とも連携が生まれてくるでしょう。健康への取り組みを個々人から組織単位の大きなものにすることで、日本社会も変わっていくのではないかと考えています。

 山本化学工業株式会社