健康経営――。近年、この概念が日本でも広まりつつある。「企業の持続的成長には、従業員の健康が不可欠」との考え方から、従業員の健康に配慮し、その増進を促す仕組みをつくることで生産性向上につなげようとする発想だ。前回紹介したように山本化学工業では「バイオラバー」など社員の健康に寄与する高機能製品を各企業にリースするシステムを構築し、健康経営をサポートしようと試みている。引き続き、山本富造社長に二宮清純が話を訊いた。

 予防ではなく健康増進を

二宮: これまで山本化学工業では、さまざまな健康維持・増進に役立つ高機能製品を世の中に送り出してきました。個人ではなく組織単位で働きかけようと考えたきっかけは?
山本: 我々はバイオラバーを活用しての低体温の改善や、「ゼロポジションベルト」を使った骨盤の自然なかたちでの矯正など、高齢化社会が進むなかで皆さんがより健康的な生活を送れるように提案をしてきました。しかし、個々人の取り組みだけでは、どうしても限界がある。そんな折、健康経営という発想が出てきて、企業単位で従業員の健康増進を考えようという流れになってきました。その活動を私たちがサポートできないかと思ったんです。

二宮: 日本人の低体温化はかねてから、このコーナーでも取り上げてきました。個人レベルではなく、企業などの組織を巻き込んで社会全体で取り組まなくてはいけない課題のひとつになっています。
山本: 高齢化や運動不足により、筋肉量が減少して代謝が低下し、年々、日本人の平均体温は低下傾向にあります。体温が下がると免疫力が低下して病気にかかりやすくなりますし、消化、吸収力の低下でサプリメントや薬を摂取しても効力が弱まってしまいます。リンパ球の働きが鈍るため、妊娠もしにくい体質になるんです。このように低体温は、あらゆる意味で人体に悪影響を及ぼします。低体温の解消は今後、日本人の健康を考える上で最も大切になってくるでしょう。

二宮: 医療技術が進歩して、病気治療や予防の分野はかなり発達してきています。しかし、その前段階でもっと改善の余地があるということですね。
山本: 健康経営は病気予防というネガティブな発想でなく、健康を増進させる、体力をアップさせるといったポジティブな方向で取り組むべきでしょう。そのために積極的に運動をして体温を上げたり、プラスの循環をつくりだすことが必要だと感じます。

二宮: 運動不足の解消で社員に定期的な運動を促すにあたって、体が温まっていないと思わぬケガの元になります。また骨盤がずれたりしていても体に負担がかかりますね。
山本: 高齢者が増えて元気なお年寄りも多い一方で、車椅子や寝たきりの生活を余儀なくされている方も少なくない。体が動かなくなる前に、会社で働いている時期から運動の習慣をつくっておくことが、とても重要です。バイオラバーやゼロポジションベルトを社内で配布して使ってもらえれば、快適にスポーツができるのではないかと考えています。

 アプローチを選択可能な社会に

二宮: 日本は長寿大国と言われていますが、長寿=健康とは限らない。現に国民医療費は2013年度には40兆円を突破する見込みです。この軽減をはかる上でも、まずは病院にかからない体づくりに乗り出すべきでしょうね。
山本: そのためにも企業側が健康診断はもちろん、従業員がスポーツを楽しめるよう積極的に支援してもよいのではないでしょうか。健康診断に加えて、定期的に体力測定をして目標設定をするのもひとつの方法でしょう。スポーツジムや各施設との連携は、新たなビジネスチャンスにもなるはずです。病院だって病気治療や予防だけではなく、スポーツへの取り組みをサポートする側に力を入れられれば、医療費の削減へ大きな流れが生まれます。

二宮: それは医療の枠にとどまらず、従来の日本のシステムを大きく変えることにつながりますね。
山本: バイオラバーを健康機器として第1号認定した日本統合医療学会では病状に対して治療を施す対処療法だけでなく、心身の健康増進を目的とした原因療法を組み合わせたアプローチを推進しています。そうすると、鍼灸や整体、マッサージといった領域も医療の中に組み込まれていく。病院とスポーツジム、そして民間療法の機関などが連携して、ひとりひとりが健康に過ごせる最適な方法を見出せるはずです。

二宮: 健康状態は人それぞれですから、選択肢が増えることはプラスになるでしょう。
山本: 現状は医療機器か健康器具か、製薬かサプリメントか、といった具合で選択肢が二者拓一になっています。医療機器や薬として認可されるには、審査が厳しく、その分、コストがかかる。そこで準医療機器や準製薬といった中間部分が認められれば、もっと、この分野の開発は進んでいくはずです。その人の好みや状況に応じて、いろんな方法が選べる社会になるのが理想ですね。

二宮: その第一段階として、健康経営の推進を下支えしていくわけですが、製品のリースはいつ頃からスタートするのでしょうか。
山本: もう既に伊藤忠さんの一部の事業所で導入していただきました。リースを増やしていくにあたって、どの製品がどんな仕様なのかをまとめたリストを企業向けに作成中です。従業員の年齢層や健康状態、予算に応じて製品を選択していただければと考えています。

二宮: 製品をどう使えば効果的なのか、企業でレクチャーをするのもよいかもしれません。
山本: そうですね。最終的にはスポーツをする中で効果を実感していただけるのが一番ですからね。僕たちは健康セミナーに参加する際には、「親指を真っすぐ出す」といった歩き方のアドバイスもするんです。すると、またお会いした際に「歩く際にヒザの痛みが軽くなった」と声をかけられる。歩くのが苦痛でなくなれば、運動もやってみようと意欲がわいてくきます。ソチ五輪でもメダルを獲得したスキージャンプの葛西紀明選手は40歳を過ぎても世界で結果を残し、“レジェンド”と呼ばれています。一般社会でも、何歳になっても活発に働け、社会に貢献できる“レジェンド”がひとりでも増えるよう、我々も協力していきたいと思っています。

 山本化学工業株式会社