ブラジルW杯開幕が、すぐそこまで迫ってきました。27日のキプロス代表戦、日本代表は1対0の辛勝。これを受けて「大丈夫か?」と不安になった方もいるでしょう。しかし、アルベルト・ザッケローニ監督にとっては、想定内の“苦戦”だったと思います。鹿児島合宿での過酷なフィジカルトレーニングの影響で、選手たちの動きにキレがないことは織り込み済み。W杯本番でも、連戦や移動によって疲労が蓄積していきます。ザッケローニ監督はそういった状態を想定してキプロス戦に臨み、どれくらい戦えるのかを確認した。私はそう見ています。
 大久保が見せた進化の証

 選手たちは疲れて体が重い時の感覚を覚えたことでしょう。この苦しい経験は、きっと本番で生きると思います。今後は強化ではなく、調整の段階に入っていきますから、選手の体にはキレが戻り、日本特有のパスワークもキプロス戦より格段にスピーディーになるはずです。

 キプロス戦では、約2年3カ月ぶりに代表でプレーした大久保嘉人の存在感に目を見張りました。後半途中から出場し、ファーストタッチでミドルシュート。シュートを打つ意識の高さは彼の特長のひとつです。

 試合中には大久保の進化も見てとれました。以前の大久保は、相当我の強い選手でした。前線でボールを持つと、味方がフリーであっても強引に仕掛けるケースが目立っていたのです。しかし、今は自分を生かすために周囲もうまく利用しながら、理論的にプレーしているように感じます。

 たとえばボールを受ける時は、相手のDFから離れるように動き出す。これは、どうすれば味方がパスを出しやすいのかを理解した上での行動です。受け手の近くに敵がいると、パサーもインターセプトを恐れてパスを出しづらい。今の大久保はパサーの意図を汲み、パスの選択肢を増やす動きができます。若手の柿谷曜一朗や大迫勇也にはない、経験豊富なベテランならではの強みですね。

 また、右太ももの負傷から復帰した内田篤人の回復ぶりにも安心しました。長い距離を走っての攻撃参加がありましたし、守備では相手選手との接触を厭わず激しくプレーできていました。とは言っても、約4カ月ぶりの実戦とあって、内田は不安を感じていたと思います。どれぐらいプレーできるのか、ケガが再発しないか……。その意味で、前半43分の決勝点は、彼の今まで積もり積もっていたフラストレーションを解消する大きなゴールだったのではないでしょうか。

 他の選手同様、疲労の影響で動きはまだまだでしたが、それは今後の調整で上向いてくるはずです。何より、キプロス戦で問題なくプレーできたことで、内田は心が軽くなったと思います。心身ともに健全な状態で、本番に向けた準備に取り組めるでしょう。

 守備の課題はセカンドボール対応

 キプロス戦では修正点も見えました。守備面では、ロングボールを放り込まれた時の、セカンドボールへの対応です。日本はロングボール一発で裏へ抜け出されるシーンは少なかったものの、競り合った後のボールをキプロスに拾われていました。セカンドボールをキープできないと、相手に波状攻撃をしかけられるきっかけを与えてしまいます。

 平均身長で上回るチームとの対戦では、ファーストボールの競り合いで不利になるのはある程度、仕方ないでしょう。ですから、日本はセンタリングやロングボールのこぼれ球にいち早く反応することが重要です。そのためにはボールがこぼれる位置を予測したポジショニング、激しい球際の争いにも躊躇しない気持ちの強さが求められます。特にグループリーグ第2戦で戦うギリシャは平均身長が高いチームだけに、ロングボールへの不安は少しでも小さくしていきたいところです。

 攻撃面では、シュートの精度の低さが目立ちましたね。チャンスをつくりながら、肝心のフィニッシュがゴールマウスを捉えられない。少なくともゴールの枠内へシュートを打てれば、GKやDFに防がれたり、ポストに跳ね返ったりしても、こぼれ球を押し込める目も出てきます。地道ではありますが、シュート練習を繰り返し、少しでもフィニッシュの精度を高めていかなければなりません。

 また、自分たちの“かたち”のブラッシュアップも必要です。理想形は昨年の欧州遠征・オランダ戦の2点目。横と縦のパスを織り交ぜ、かつ少ないタッチ数でボールを回す。それに選手の連動が加わったことで、強豪オランダの守備陣も為す術がありませんでした。日本の武器である敏捷性と高い技術力を生かす攻撃のかたちを1回でも多くつくれるように、これからのキャンプでイメージを擦りあわせていってほしいですね。

 6月14日(現地時間)に迎える初戦コートジボワール戦では、勢いを得るためにも、勝ち点3が欲しいところ。ザックジャパンが残り時間を有意義に使い、万全の態勢で初戦に臨んでくれることを強く願っています。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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