二宮: お久しぶりです。今回は長期貯蔵のそば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」を飲みながら、いろいろお伺いしたいと思っています。
岩崎: この「那由多(なゆた)の刻(とき)」はお店でボトルを見たことがありますね。でも、実際にいただいたことはないので、どんなお酒か楽しみです。

 平泳ぎで世界と勝負するポイント

二宮: 「那由多(なゆた)の刻(とき)」を知っているとは、なかなかツウですね。お酒はほぼ毎日?
岩崎: そうですね。お酒はあまり強くないんですけど、自宅にいる時は飲むことが多いです。

二宮: ご主人は元ラグビー日本代表の斉藤祐也さん。夫婦で晩酌ですか。
岩崎: いえ。主人は外で飲んでも、家ではほとんどお酒を口にしないタイプなんです。だから、家で飲むのは私ひとり(笑)。

二宮: お酒はなんでもOK?
岩崎: ビールでもワインでも焼酎でもウイスキーでも、その時の気分や料理に合わせて飲むのが好きです。

二宮: では、まず「那由多(なゆた)の刻(とき)」のソーダ割りで乾杯しましょう!
岩崎: あっ、焼酎というより洋酒みたいな味わいですね。すごくスッキリしていて飲みやすい。香りも私の好みです。どんな料理にも合いそうなところもいいですね。

二宮: 8月のパンパシフィック水泳では岩崎さんもテレビで解説をしていました。渡部香生子選手が女子200メートル平泳ぎで金メダル、100メートルでは銀メダルを獲得しました。15歳で出場したロンドン五輪後は、やや成績が伸び悩んでいましたが、ここにきて壁を乗り越えたと言えるでしょうか。
岩崎: 中村真衣ちゃんや種田恵ちゃんを育てた竹村吉昭先生がコーチについて、心身ともにレベルアップしましたね。竹村先生はいろんなトレーニング方法を知っているし、気持ちの乗せ方もうまい。もともとキックが上手だった上に、上半身がパワーアップして腕でしっかりかけるようになりました。車に例えれば二輪駆動だったのが、四輪駆動で前に進めるようになったんです。

二宮: なるほど。腕のかきとキックのバランスが良くなってきたと?
岩崎: 平泳ぎでは、足と腕を引いている時間をいかに短くするかがポイントです。足と腕を引くと、その分、水の抵抗を受けて前への推進力が失われる。だから、北島康介君や私は、なるべく腕と足が伸びる時間を長くして前に進もうとしていました。海外の選手はパワーを武器にガツガツ水をかくタイプも多いのですが、日本人は同じ方法では勝てません。いかにタイミングよく、ひとかきで効率よく進むかを考えた泳ぎをしています。

二宮: その意味で競泳の五輪金メダリストは、戦前は鶴田義行さん、前畑秀子さん、葉室鐡夫さん、戦後は古川勝さん、田口信教さん、岩崎さん、北島選手と平泳ぎが多い。やはり、競泳の中でもテクニックで世界と対抗できる種目と言えるでしょうか。
岩崎: 確かに他種目と比べればパワーは大きな問題にならないですね。ただ、最近はパンパシの100メートル、200メートルで2冠を達成した小関也朱篤君のように、身長が190センチ近い大型選手も出てきました。パワーとテクニックを兼ね備えれば、今後、どこまで伸びるか楽しみです。

 決勝前、ありがたかったコーチの一言

二宮: 岩崎さんも小さな体で中学2年にしてバルセロナ五輪で金メダルを獲得しました。その時の身長は?
岩崎: 当時のプロフィール上は157センチと書いていましたけど、実際は155、6センチでした。今も160センチあるかないかです。アトランタの時は158センチくらいで、身長が伸びると動きも変わってきますし、体重が増えると体におもりがついた感覚になります。成長期は泳ぎのバランスをいかに保つかを悩みますね。

二宮: あのバルセロナ五輪は、もう22年前の出来事になるんですね。時が経つのは早いものです。私も現地で取材をしていましたが、報道陣は完全にノーマーク。でも、レースごとに一気に速くなった印象を受けました。
岩崎: 4月の選考会から7月の本番まで、練習をしていて自分でも速くなっている自覚はありました。それまで地元の沼津のスイミングクラブで泳いでいるだけだったのが、代表になって本格的なトレーニングをしていた時期と自分の成長期とがうまく重なったんでしょう。でも、練習とレースは別物ですから、どのくらいのタイムで泳げるか、自分でもまったくわからなかったですね。

二宮: そもそも代表に選ばれたこと自体、思いがけない出来事だったそうですね。
岩崎: それまでは3学年上の姉のほうがセンスがあると言われていて、当然、タイムも全然違う。姉とは同じ種目でしたから、同じ年齢になった時に、その記録を上回りたいと思いながら練習していただけだったんです。代表に選ばれたいとの意識はそんなに強くありませんでした。選考会の重みをそれほど感じることなく、普段のレースの延長戦上で、とにかくがむしゃらに泳いだだけでしたね。

二宮: ただ、五輪の前年には当時の日本歴代2位の記録を出しています。岩崎さんも充分、センスがあったのでは?
岩崎: いえいえ。その前にナショナルチームのひとつ下のカテゴリーで、ものすごくキツい練習をさせられました。沼津では考えられない練習量で、メニューの内容もよく理解できないほどだったんです(苦笑)。そのおかげで中1の時に自己ベストが3、4秒伸びて、選考会に出られるレベルになりました。

二宮: 選考会では粕谷恭子さんに続いて2位。お姉さんよりも上位に入り、代表に選ばれました。お姉さんは、さぞ悔しかったでしょうね。
岩崎: 姉はそういった素振りを私の前では見せなかったですね。両親もスポーツの世界だから仕方ないと割り切っていたようです。ただ、後で母と話をしたら、「願わくばバルセロナはお姉ちゃん、アトランタは恭子に出てほしかった」と贅沢な本音を漏らしていましたが(笑)。

二宮: 迎えた本番では予選で2分27秒78を出して日本記録(2分29秒91)を大幅に塗り替え、決勝では、これをさらに上回る2分26秒65。当時は予選と決勝を1日でこなしていましたから、それで1秒ちょっとタイムを縮めたのは驚異的です。
岩崎: 普通はあり得ないですよね(笑)。それまでの自己ベストを予選で3秒ちょっと縮めていましたから、決勝のタイムは5秒弱上回った計算になります。当時の日本記録は長崎宏子さんが持っていて、約9年、破られていなかったんです。予選で記録を更新して「もう、これで胸を張って帰国できる」と達成感もありました。するとレース後、代表ヘッドコーチの鈴木陽二先生から声をかけられました。「恭子ちゃん、良かったね。でも、もう1回(決勝が)あるからね」。その言葉を聞いた瞬間、「ヤバイ、心の中を見られた!」と感じたんです。

二宮: 鈴木コーチの一言で、気を引き締め直したと?
岩崎: もちろん決勝のレースが残っているのは分かっていましたけど、鈴木先生の言葉がなかったら、気持ちが浮ついたままでスタート台に立っていたでしょうね。「決勝に向けて、できるだけの準備はしよう」と思い直すことができました。それから、私にずっとついていただいたコーチの渡辺正己先生から、「恭子ちゃん、今みたいに落ち着いて泳げば、もっといいタイムが出るよ」と言っていただいて、純粋に「そっか、頑張ろう」と前向きにレースに臨めたのもありがたかったですね。

 ゴーグルをつけなかったことが幸い?

二宮: そして決勝です。100メートルのターンでは3位。トップの世界記録保持者アニタ・ノール(米国)とは1秒68も差がありました。ここから凄まじい追い上げをみせます。前との差が縮まっているのはわかりましたか。
岩崎: 私はゴーグルをつけないで泳いでいたので前はボンヤリとしか見えませんでした。横に並んだのもよくわからなかったんです。ただ必死に泳いでいただけでしたね。

二宮: 言われてみれば、あのレースではゴーグルをつけていませんでした。理由は?
岩崎: たいした理由じゃないですよ(笑)。小学校時代、レースで個人メドレーに出た時に予選も決勝も飛び込んだらゴーグルが外れてしまったんです。当時のゴーグルは大きくて重かったので、外れるとものすごく泳ぎにくい。それでコーチに「ゴーグルをするな」と注意されてからレースではつけなくなりました。バルセロナでは選考会から本番まで、ゴーグルはつけずに泳いでいます。

二宮: 考えようによってはゴーグルをつけずに、よく見えない状況だったからこそ無欲の勝利が生まれたのかもしれませんね。勝ったと分かったのは、どのタイミングですか?
岩崎: 電光掲示板を見た時ですね。最初はコース順にタイムが出て、その横に順位が表示される。私の名前に「1」とついていたので、「あれ?」と思っていたら、表示が変わって1位からの順位順になりました。その時に1番上に名前があって、もう何が何だか分からない感じでした。

二宮: レース後のインタビューでは「今まで生きてきた中で、一番幸せです」との名言が生まれました。その時は、こんなに日本中の人々の記憶に残るとは思ってもみなかったでしょう?
岩崎: 想像以上でした。テレビでも何度も繰り返し放送されて、バラエティ番組でも使われている。たまたま読んだ小説にも、そのフレーズが出てきて、「岩崎恭子みたいなことを……」とか書いてあったりするんです。本当にビックリしました。

二宮: 五輪には魔物が棲んでいるという話をよく聞きます。注目度も他の大会の比ではない中、岩崎さんの泳ぎはまったくプレッシャーを感じていないように映りました。
岩崎: それは本当に不思議なんです。なんで、あんなに普通に泳げたのか。当時の自分としては今まで生きてきた中で一番、緊張していたはずですけど(笑)、後になって振り返ってみると、ものすごく気持ちが自由でした。緊張で体がガチガチになることもなかったんです。

二宮: よくスポーツ界では経験が大切と言われます。指導者もメディアも成績が悪いと、「まだまだ経験が足りない」と原因をそこに求めることが少なくありません。でも、岩崎さんの金メダルを目の当たりにしてから、私はその考え方に疑問を抱くようになりました。経験を積んでいけば、本当に結果はついてくるものなのかと。
岩崎: そうですね。本番で成績が出るか出ないかの世界ですから、結論としては経験のあるなしはあまり関係ないのかもしれません。経験がある分、プラスになることもあれば、マイナスになることもある。私の場合は、バルセロナは経験がなくて良かったととらえています。4年後のアトランタ五輪は経験がある分、怖かったんです。アトランタでは田中雅美ちゃんと事前合宿でも選手村でもずっと一緒に行動していました。その雅美ちゃんにこんなことを言われました。「恭子ちゃん、なんで、そんなに怖い顔しているの?」って。確かにレース前はものすごく緊張していて、初めて体が震えました。

二宮: 前回大会で金メダルを獲ったという経験が、かえってマイナスに働いてしまったと?
岩崎: アトランタで怖さを感じてしまって結果を残せなかったのは非常に残念でした。一方で雅美ちゃんに話を聞くと、アトランタ、シドニーと個人種目で振るわず、つらい経験をしたからこそ、アテネではまったく怖くなかったそうです。本番前にフラッシュバックのように今までお世話になった方がどんどん頭の中に現れてきて、「この人たちのために頑張ろう」と余裕を持ってレースに臨めたと聞きました。これは経験をプラスに変えたケースではないでしょうか。私も、もう1回、五輪に出ていたら、経験をいい方向で生かせたかもしれない。この点は少し心残りに思っています。

二宮: 経験がどう作用するかは人それぞれ。私は勝敗の分水嶺は、実は経験の有無とは別のところにあると感じています。そこに目を向けず、「経験」の一言で片付けてしまったら、本当の勝因や敗因は分析できないのではないか……。
岩崎: もちろん経験を積んで良くなる人もいれば、過去の経験を引きずってダメになっていく人もいる。私自身は経験がなかったからこそ金メダルを獲れた。今でも、そう思っています。

(後編につづく)

岩崎恭子(いわさき・きょうこ)
1978年7月21日、静岡県生まれ。5歳より姉の影響でスイミングスクールに通い始める。14歳で出場したバルセロナ五輪、女子200メートル平泳ぎで、日本人史上最年少で金メダルを獲得。当時の日本記録を更新する2分26秒65をマークする。続くアトランタ五輪にも2大会連続の出場を果たした。98年に競技引退後は米国へ児童の指導方法を学ぶために留学。05年には日本赤十字社の幼児安全法支援員、日本水泳連盟の基礎水泳指導員の資格を取得。現在は水泳指導や水泳の楽しさを伝えるためのイベント出演を中心としながら、メディアやトークショーへの出演などを精力的に行っている。シドニー、アテネ、北京、ロンドンの各五輪ではオリンピアンの視点で情報を発信するアスリートキャスターとしても活躍。11年3月に第一子を出産し、母親としても日々奮闘している。
>>オフィシャルブログ「ことばのしずく」

★今回の対談で楽しんだお酒★[/color]

長期に渡り、樫樽の中で貯蔵熟成した長期貯蔵の本格そば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」。豊かな香りとまろやかなコクの深い味わいが特徴。また、ソーダで割ると樫樽貯蔵ならではの華やかなバニラのような香りとまろやかなコクが楽しめます。国際的な品評会「モンドセレクション」2014年最高金賞(GRAND GOLD QUALITY AWARD)受賞。

提供/雲海酒造株式会社

<対談協力>
おうどん銀座うらら
東京都中央区銀座8−6−15 銀座グランドホテルB1
TEL:03-6228-5800
営業時間:
朝食   7:00〜10:00  
昼・夕食 11:30〜04:00(L.O.03:00)月〜金  
      11:00〜22:00(L.O.21:00)土・日・祝

☆プレゼント☆
 岩崎恭子さんの直筆サイン色紙を長期貯蔵本格そば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」(720ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。ご希望の方はより、本文の最初に「岩崎恭子さんのサイン希望」と明記の上、下記クイズの答え、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、このコーナーへの感想や取り上げて欲しいゲストなどがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選発表は発送をもってかえさせていただきます。締切は10月9日(木)までです。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。
◎クイズ◎
 今回、岩崎恭子さんと楽しんだお酒の名前は?

 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

(構成:石田洋之)


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