何年ぶりかでブンデスリーガのコメンテーターをやらせていただくことになった。久しぶりに本腰を入れて見るようになって、あらためてこのリーグのレベルアップぶりに驚かされている。
 10年ほど前のブンデスリーガは、正直、退屈な試合の方が多いリーグだった。スペインのような創造性はなく、プレミアのような華もない。ゴラクとしてならば全盛期の磐田の方がはるかに上、と思った記憶さえある。
 もちろん、いまも退屈な試合はある。ただ、以前とは比較にもならないぐらい、スリリングな試合が増えた。“ブリッツ・クリーク”(電撃戦)とでも呼びたくなるような、超絶カウンターの使い手が増えたのがその一因だろう。この国のカウンターは、弱者の退屈な手段ではなく、娯楽性と危険度を兼ね備えた必殺の武器となりつつある。

 もう一つ、これは驚きではないのだが、ちょっと面白いなと思っていることがある。日本ではまず見られない、ブンデスリーガのカメラワークである。

 得点が生まれる。試合が終わる。その瞬間、選手やベンチを映すのは日本もドイツも変わらない。ただ、そこからが違う。ドイツのカメラは、極めて高い確率でチームのフロント・スタッフにレンズを向けるのである。

 最近では、シャルケのスポーツディレクター(SD)がクローズアップされていた。ゴールを奪われるたび、敗北を告げるホイッスルが鳴るたび、ケラー監督に続いて彼の表情が大写しになる。人事権を握る人物が何を考えているか、少しでもヒントを探そうというカメラアングルである。

 考えてみれば、現代のプロサッカーにおいて、フロントの力量は極めて大きな意味を持つようになっている。以前はボランティアのスタッフも珍しくはなかったブンデスリーガの各クラブも、どんどんとフロント・スタッフのプロ化を進めてきた。ファンも、メディアも、フロントの重要性は知っている。ゆえに、その表情が狙われるのである。

 いうまでもなく、フロントが重要なのはJリーグでも変わらない。にもかかわらず、試合中にそうした立場の人が映し出されることは少ない。彼らの名前と顔が知られることもあまりない。

 シャルケのヘルトSDは元ドイツ代表である。彼だけではない。ブンデスリーガのフロントには、かつてプロだった選手がかなりいる。レバークーゼンのフェラーSDのように、監督よりも有名なフロントスタッフもいる。

 引退後、指導者になりたいと口にするJリーガーは多いが、フロントに入りたいという声はあまり聞いたことがない。前例がない、というのがその理由なのだろうが、ゆえに、鳥取の岡野GMには期待したい。彼がスポットライトを浴びることで、この職業を志す有能な人材は、いまよりも確実に多様化するはずだからである。

<この原稿は14年10月2日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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