高田延彦・向井亜紀夫妻が主催する、アマチュアレスリングの要素を取り入れた体操教室(DKC)が初めて沖縄で開催されるというので、のぞきに行ってきた。
 驚いた。参加している子供たちが、とんでもなく楽しそうなのである。
 最初は違う。どの子もおっかなびっくりで、中には親に言われて無理やり連れてこられたというのが一目瞭然、完全にふてくされている子供もいる。ところが、3時間近いカリキュラムが終わる頃には、小学校低学年が参加した午前中のクラスも、高学年が参加した午後のクラスも、笑顔と熱気であふれ返らんばかりになっていた。

 なぜ子供たちはあんなにも盛り上がっていたのか。答えは簡単。すべてのカリキュラムに、遊びと競争心を刺激する要素がちりばめられていたから、だった。

 高田夫妻には申し訳ないが、サッカーとレスリング、競技自体の魅力、面白さを比較すれば、前者に軍配をあげる人が圧倒的ではないかと思う。だが、わたしの知る限り、少年サッカーのスクールでDKCほど笑顔があふれているのは見たことがない。DKCでは、参加者全員が手をつないで輪を作り、スクワット100回をやって練習を締めくくっていたが、あれほどの連帯感も、見たことがない。

 サッカーは、競技自体の魅力に甘えてはいないだろうか。サッカーが楽しいがゆえに、子供たちを楽しませようという観点が欠落しているのではないだろうか。

 いま、日本中にはたくさんのサッカースクールがあり、そこでは、熱心な指導者たちが一生懸命に知識と技術を教えている。そこで教えられているのは「役に立つこと」である。

 DKCは違った。そこで行われていたのは、「楽しいこと」だった。「楽しいこと」をやっているうち、いつの間にか「役に立つ」ようにもなっている――言ってみれば、ストリート・サッカーと同じ図式がそこにはあった。

 クライフ・ターンもマルセイユ・ルーレットも、「役に立つ」練習からは生まれない。楽しいから、かっこいいから、だれもやっていないから――そんな発想から生まれた路上の技術である。いま、全世界でストリート・サッカーは絶滅の危機に瀕しているが、世界でも稀有な、才能を路上に求めることなくW杯常連となった日本は特に、より練習に楽しさを持ちこまなければならないのではないか。

 勝敗だけを追い求めるならば、そこに楽しさは必要かもしれない。ただ、教え子の中からロナウジーニョのような選手が出てきてほしいと夢想する指導者には、一度DKCをのぞいてみることをおすすめする。

 ちなみに、これからスクールを立ち上げようとしていたFC琉球の元選手は、カリキュラムの全面見直しを決意したそうである。

<この原稿は15年2月26日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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