日本代表の次期監督がハリルホジッチでほぼ決定したらしい。面白いところに目をつけたな、というのが個人的な感想。W杯ブラジル大会で見せたアルジェリアの戦いぶり、特にドイツを苦しめた一戦は強く印象に残っている。
 一方で興味深いのは、彼が以前に指揮を執っていたコートジボワールが、アルジェリアとはまったく違ったサッカーをやっていた、ということである。

 サッカーの世界には、おおまかにいって2種類の監督がいる。選手たちを自分色に染める監督と、選手の特色に自分の考え方をアジャストさせる監督である。前者の代表格としてあげられるのがバイエルンのグアルディオラやザッケローニだとしたら、ハリルホジッチは後者のタイプである可能性が高い。

 わたしの見る限り、前任者のアギーレも後者のタイプだった。ザックが4年をかけて作り上げたチームを尊重し、定まりつつあった方向性をそのまま後押しした。勝てなかったにもかかわらず、アギーレ監督のやり方に共感し、解任を惜しむ選手が少なくなかったのは、なれ親しんだ居心地の良さが常にあったからではないかとわたしは思う。

 技術大国を目指すメキシコから来た指導者がそうだったように、かつて“東欧のブラジル”と呼ばれた旧ユーゴ出身のハリルホジッチも、おそらくはザックのスタイルを踏襲することになる。当然、そのあたりは日本サッカー協会の意図も働いているはずである。

 ただ、日本サッカーがどういう方向に向かっていくかに関しては、ファンや識者の間でもさまざまな意見がある。わたしは、いまでもザッケローニのチームを高く評価しているし、アジア杯での日本代表に対しても強い好感を抱いている。

 だが、決勝トーナメント進出を果たしたという結果をもって、南アフリカでの日本代表にシンパシーを覚える人からすれば、ザックもアギーレも論外ということになる。いったい、日本人は何を目指しているのか――ハリルホジッチもいずれは頭を悩ませることになるかもしれない。

 一つ心配なことがあるとすれば、メディア対策である。欧州屈指のビッグクラブでの指揮経験があったザッケローニは、史上最も巧みに日本のメディアとつきあった監督だった。だが、世界一シニカルなフランスのメディアとやり合い、かつアフリカで指揮をとってきたとなると、かつてのトルシエがそうだったように、メディアと衝突を繰り返すことも考えられる。

 報じられていることが事実ならば、新監督との契約はW杯本大会までではなく、その1年前までになる予定だという。これまた面白い。良ければ任せ、ダメなら斬る。サッカー界の常識に則った契約である。

<この原稿は15年3月5日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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