4月、ボディメーカーコロシアム(大阪府立体育会館)で2つのビッグなボクシング世界戦が行われる。
 日本のリングでの世界戦開催は昨年の大晦日以来(男子に限る)のこと。例年通り、今年も春から再び「日本の拳闘シーズン」が始まる。
(写真:前回の防衛戦、3度のダウンを奪って圧勝した山中が今年の先陣を切る)
 まずは4月16日、WBC世界バンタム級王者・山中慎介(帝拳)が昨年10月以来、8度目の防衛戦に挑む。対戦相手はランキング7位、アルゼンチンのディエゴ・サンティリャン。

 現在27歳で、これまでアルゼンチン国バンタム級王座をはじめ、南米のローカルタイトルをいくつか獲得しており、戦績は23戦全勝(15KO)。ただ、名のあるファイターとの対戦はなく、またファイトスタイルも実にオーソドックス。過去の試合映像を見た限りでは、これといった特徴もない。これまでの両者の実績を比較すれば、予想は山中優位。ゴッドレフト(神の左)が炸裂し、KO決着となる可能性が高い。

 また、この一戦の前座で山中よりも5代前、第24代WBC世界バンタム級王者のベルトを腰に巻いていた辰吉𠀋一郎の息子、18歳の寿以輝(大阪帝拳)がプロデビューを果たす。いま大阪では、この話題で持ちきりで、テレビ放映されることも決まっている。まだ実力云々を問う時期ではないが、試合内容次第では、山中の防衛戦以上に注目を集めることになるかもしれない。

 その約1週間後の22日には、同所で井岡一翔(井岡)が世界3階級制覇再挑戦に挑む。
 一昨年の大晦日、フェリックス・アルバラード(ニカラグア)に判定勝利を収めたのを最後に3度防衛したWBA世界ライトフライ級王座を返上。その4カ月後にIBF世界フライ級王者アムナト・ルエンロン(タイ)に挑むが判定負け。王者にテクニックに翻弄され、決定打を放てず、プロ初黒星を喫してしまい、唇を噛みしめた。

 あれから1年間、井岡はくじけることなくパワーアップに努めてきた。そして満を持して、叔父である井岡弘樹が成し遂げられなかった3階級制覇という偉業に再チャレンジする。

 選んだ相手は31歳の実力派(WBA世界フライ級)チャンピオン、ファン・カルロス・レベコ(アルゼンチン)。身長157センチと小柄の右ボクサーファイターではあるが、瞬発力には定評があり、飛び込んで放つ左右のフックは強烈。また多彩なパンチを有しており、テクニック的評価も高い。これまでの戦績は36戦35勝(19KO)1敗。2011年に王座(当初は暫定王座)獲得以降、8度の防衛を果たしてきた強者だ。

 井岡は3月3日から和歌山でキャンプを張るなど、万全のコンディションを整えるべく始動している。そして、こう話す。
「目指すは、打って打たせないボクシング。王者のレベコが高い壁であることもわかっている。でも必ず乗り越える。そのために今日までやってきましたから」

 この一戦、私の予想はイーブンだ。どちらが勝つか微妙である。ただ王者交代の狭間を狙ってベルト獲りを果たそうとしなったことに井岡の心意気が感じられてうれしい。このあたりは先に3階級制覇をしている亀田興毅とは大きく異なる。

 注目される大舞台で井岡が3階級制覇を達成したならば、プロデビューから18戦目での快挙。これは、あのオーストラリアの名チャンピオン、ジェフ・フェネクの20戦目を上回る世界最短記録となる。

 ぜひとも井岡には3階級制覇を達成してもらいたい。さらに、その先に井上尚弥(大橋、WBO世界スーパーフライ級王者)とのスーパーファイトが見てみたい。夢は、さらに広がる。

----------------------------------------
近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー〜小林繁物語〜』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン 〜人種差別をのりこえたメジャーリーガー〜』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『忘れ難きボクシング名勝負100 昭和編』(日刊スポーツグラフ)。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


◎バックナンバーはこちらから