やっと、自分の中でしっくりするたとえ話が見つかった。
 W杯は、ゴルフにたとえればいいのだ。
 具体的な名前を出してしまって恐縮だが、タイガー・ウッズと石川遼が賞金王を争ったとしよう。もちろん石川遼にもチャンスはあるだろうが、現状、タイガーに分があると見る人が圧倒的なはず。だが、これが1つの大会で雌雄を決することになった場合はどうか。あるいは、1ホールだけの一発勝負だったとしたら?

 チャンスは、ある。いや、1年間、1大会の勝負では100%勝ち目のないアマチュアであっても、1ホールだけの勝負なら勝つ可能性はゼロではない。

 W杯は、言ってみれば1ホールだけの一発勝負なのである。

 では、かくなる大会を勝ち抜くためには、いかなる道をとるべきなのか。大まかに言って、そのルートは2つある。

 一つは、タイガー・ウッズを目指すこと。一発勝負となれば不測の事態が起きることもあるが、それでも、勝つ可能性が高いのはやはり地力に勝るもの。そう考えて、時間をかけてチームの骨格をくみ上げていく。

 もう一つは、一発勝負のスペシャリストを目指すこと。地力での勝負には見切りをつけ、勝負に特化したチームをつくる。徹底的に相手の弱点を研究するタイプもあれば、内容を度外視して守備を固めまくるやり方もある。長丁場の戦いではぶっちぎられることは明白でも、短期決戦ならば何が起こるかわからない。

 もちろん、この2つのルートは必ずしも正反対の方向に向かっているわけではない。地力のアップを目指しながらも一発勝負の研究を怠らない監督がいれば、その逆のタイプもいる。

 振り返ってみれば、日本代表の監督選びも、2つのタイプの間をゆらゆらと揺れ動いてきた。現実路線の岡田氏から、かたくななまで自分のやり方にこだわったトルシエ、日本人の可能性を信じたジーコから、オシムを経て再び現実路線の岡田氏へ。そして地力を高める素晴らしい手腕と、あまりにもお粗末な一発勝負との向き合い方を露呈してしまったザッケローニ――。

 就任以来、ここまでのコメントから推察するに、新監督のハリルホジッチ氏は自在型である。タレントを手にすれば理想主義者となり、不足すれば現実路線に突っ走る。いままでの監督にはなかったタイプと言っていい。

 個人的な願望を言えば、新監督には理想路線を貫いてほしい。一発勝負に特化した勝利は、その国の財産とはならないケースが珍しくない。そうならないために求められるのは、協会のハンドリングである。

<この原稿は15年3月19日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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