まだ試運転期間だということはわかっている。この段階でのサッカーが、必ずしもその監督のすべてを表すわけではないこともわかっている。
 それでも、何か釈然としない。
 ウズベキスタン戦の快勝を受けて、翌日のスポーツ紙はこぞってハリルホジッチ監督の手腕を称賛していた。「魔術」という言葉まで使っていたところもある。

 ウズベキスタンから5得点奪うのは簡単なことではない。たとえそれが、6人もの選手を交代できるレギュレーションの影響を大きく受けたものであったとしても、である。ゴールラッシュの理由の一つとして、ハリルホジッチ監督の斬新な選手起用があったのは間違いない。

 だが、わたしが気になるのは、むしろそこなのだ。

 W杯ブラジル大会での日本を率いたザッケローニ監督には、チームを作り上げる能力には素晴らしいものがあった半面、「選手交代下手」という明らかな欠点があった。となれば、後任に求める要素の一つとして「選手交代上手」が入ってくるのは必定。アギーレ監督は、まさにそうした流れに乗った人材でもあった。

 いまのところ、ハリルホジッチ監督は、チームの骨格や方向性を完全に明らかにしたわけではない。日本人にどんなサッカーができるのか。どんなやり方が不得手なのか。手さぐりしながら進んでいる状態ではないかと推察する。

 ただ、もし彼のやろうとしていることが、アルジェリアでやったのと同じことだとすると、正直、わたしは賛同しかねる。

 よく知られているように、W杯ブラジル大会でのアルジェリアは、すべての試合で異なるフォーメーションを用いた。確かに、決勝トーナメント1回戦でドイツ相手に見せた戦いぶりは見事だった。大会ベストマッチの一つだともわたしも思う。だが、それ以外の試合……たとえばベルギー戦やロシア戦などは、ハッキリ言えばかなり退屈な試合だった。

 あの時のアルジェリアには、なるほどハリルホジッチの魔術があった。けれども、魔術の印象が強すぎて、アルジェリアの骨格は最後まで見えなかった。

 アルジェリア同様、ドイツを苦しめたチームの一つに米国があるが、こちらは、どの試合を見ても米国だった。おそらく、次の大会でもそうだろうと確信してしまうぐらい、自分たちのスタイルを確立しつつあった。

 日本でのハリルホジッチ監督は、どちらの道を進むのだろう。

 監督が魔術的な手腕を持っているのは、むろん悪いことではない。だが、それが最大の武器になってしまうとなると話は違う。さらにいうなら、世界トップクラスとは言えない相手を下すために魔術が必要だとしたら、そちらの方が大問題である。

<この原稿は15年4月2日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
◎バックナンバーはこちらから