ディスクローズが大原則の国際機関や国際組織にあって、これほど透明性の悪い組織は近年、他に思い浮かばない。皮肉を込めて言えば、いっそのこと「最後の伏魔殿」として、ユネスコが定める「無形文化遺産」に登録を申請してみたらどうか。もちろん「負の遺産」として。
 国際サッカー連盟(FIFA)の醜聞が、またもやメディアをにぎわせている。ニューヨーク・タイムズによれば、米司法省は「マフィアや麻薬組織を想定した法律をFIFAに適用する」というから、話は穏やかではない。もはや、反社会的勢力の扱いである。

 多くの識者が指摘するように、わずか25人の理事の投票によって、世界最大のスポーツイベントであるFIFAW杯の開催地が決定するのだ。約100人のIOC委員の4分の1に過ぎず、汚職を生む最大の要因となっている。しかも会長には定年も任期制限もない。不正に対してあまりにも無防備というより、私腹を肥やす仕組みを積極的に温存しているとしか映らない。

 W杯開催国・地域を選定するにあたり、FIFAは低・中・高の3段階で候補地を評価している。これはリスクに対する評価だから一番いいのは低、悪いのは高だ。

 たとえば18年大会に立候補したイングランドとロシアの運営上のリスクを比較してみよう。イングランドに低が8つもあったのに対し、ロシアは半分の4つ。続いて22年大会に立候補した日本とカタール、米国の比較。日本と米国は低が9つで、中がひとつ。カタールは低がひとつで中が7つ、高も2つあった。にもかかわらず、決定したのはロシアとカタール。いったい何のための調査報告書だったのか。

 石が浮かんで木の葉が沈む。「サッカー界の汚職の総本山」(ロマーリオ)に17年にわたって君臨するゼップ・ブラッター会長の力の源泉――これはサッカー版ODAとも言える「ゴールプログラム」にある。会長選でのブラッターの票田はアジア、アフリカ、南米など途上国が多い地域が中心で、「カネで票を買ってきた」との疑念は消えない。

 とはいえ、こうした支援制度が途上国のサッカー環境の向上に貢献したことも事実であり、だからこそ、日本協会は老獪にして辣腕のスイス人を支持し続けてきたのだろう。反ブラッター派が多数を占める欧州出身の理事たちの途上国に対する無策も責められていい。結果として政敵の延命に手を貸す一因になっているとすれば、これ以上の皮肉はない。

<この原稿は15年6月3日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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