16日、プロボクシングのダブル世界タイトルマッチが代々木第一体育館で開催され、WBC世界バンタム級王者長谷川穂積(真正)が同級2位のアレハンドロ・バルデス(メキシコ)を2ラウンドKOで沈め、日本人では5人目となる7度目の防衛を果たした。また、WBC世界フェザー級タイトルマッチに挑んだ粟生隆寛(帝拳、同級9位)は王者オスカー・ラリオス(メキシコ)からダウンを奪う善戦をみせたが判定2−1で敗れ、無敗での世界奪取はならなかった。
(写真:試合を観戦していた武豊さんに祝福される長谷川)
 長谷川のV7戦は“苦手”サウスポーが相手ということで苦戦が予想されたが、あっけない幕切れとなった。1ラウンドの長谷川は、「動きが固かった」と試合後語ったようにスピードが感じられない。挑戦者のリーチのある右ジャブに戸惑いもみられた。しかし、パンチは完全に見えていた。インターバルでの山下正人真正ジム会長の指示は「2ラウンド勝負」。2ラウンド開始ゴング直後は立ち上がり同様、静かな展開となる。だか、2ラウンド2分過ぎ、長谷川は連打からの左ストレートの打ち下ろしで強引にバルデスをなぎ倒した。ダウンを奪ってからは鮮やかなラッシュ。見かねたレフェリーが2分41秒に試合を止めた。

 長谷川は2戦連続の2ラウンドKOに、「キレイな顔で終われるとは思わなかったのでうれしい。でも今後の事を考えれば長いラウンド戦った方がよかったのかも」と余裕の表情を浮かべた。そして、「2ラウンドから前に出ようと考えていた。それで相手が下がればさらにいくし、下がらなければ打ち合うだけです」と語り、安定王者の風格を漂わせた。今後の目標については、「7回防衛しているので王座を返上するのはもったいない。でも階級を上げるチャンスがあれば体のためにもそうしたい。海外進出は長い目で目指します」。次戦は指名試合となることが濃厚な“日本のエース”の可能性はさらに広がった。

 もうひとつの世界戦は、“日本のホープ”が“メキシコの英雄”の前に涙を飲んだ。立ち上がりは両者の持ち味が出て、見ごたえのある攻防が展開された。距離をとってカウンターを打ちたい粟生と接近戦の連打で押しきりたいラリオス。続く2ラウンドはラリオスが前に出て距離を潰し、粟生のスピードを消してみせる。しかし、そんな粟生にとって悪い流れが変わったのは4ラウンド。ラリオスの連打に伝家の宝刀、右カウンターを振り抜いた。スローモーションのように崩れ落ちるラリオスの姿に代々木体育館に詰めかけた観客は狂気乱舞。粟生は一気に畳み掛けたいところだったが、ベテラン王者はクリンチで凌ぎ、それを許さない。4ラウンド終了後のポイントは37−37が2者、1者は36−38で粟生を支持。4ラウンドに粟生の偶然のバッティングによる減点があったため、大きな差はつかなかった。
(写真:粟生は一歩も引かない好戦的なスタイルをみせた)

 続く5ラウンドも粟生の勢いは止まらない。キレのあるコンビネーションでリズムに乗り、終了ゴング間際には再び強烈な右カウンターを顔面に見舞う。ヒザが折れたラリオスだったが、粟生にしがみつきダウンを拒んだ。6ラウンドもプレッシャーをかける粟生。しかし、怯まず打ち返すラリオスのスイングは鋭く、単発でも威力があった。粟生のいいストレートが当たるとラリオスはクリンチで流れを断ち切り、したたかにテンプルに細かいパンチを浴びせた。8ラウンド終了時には75−75、76−74ラリオス、74−76粟生とポイントで両者が並んだ。
 終盤に入ると、ラリオスが2階級王者の意地をみせる。序盤のダメージを感じさせないアグレッシブなファイトを見せ、粟生の前進を止めた。そのままお互い一歩も譲らないまま試合終了のゴングが鳴り響いた。最終的なジャッジの判定は115−111ラリオス、114−112粟生、114−112ラリオス。メキシコ人王者は2度目の防衛に成功した。

 わずか2ポイント差が明暗を分けた。試合を振り返ると粟生はボディブローが少なかったように感じられた。序盤から中盤にかけてボディにダメージを蓄積させていれば、終盤にラリオスは失速し、倒せていたのでは……。しかし、この初黒星は粟生の評価を下げるものではない。それは“兄貴分”長谷川の「隆寛の戦いに勇気をもらった。次の挑戦で必ずチャンピオンになれる」との発言が物語る。挫折を知った24歳粟生のさらなる飛躍に期待したい。