2008年は総合格闘技にとって新たな時代の幕開けとなった。07年10月のPRIDE消滅をきっかけに「DREAM」と「戦極」が誕生した。
 DREAMは6度開催され、ミドル級とライト級でグランプリトーナメントが行われた。しかし、誕生年の集大成となった昨年大晦日の「Dynamite!!」は03年のスタート以後、視聴率が最低の13.9%に終わった。09年の重要なポイントとなるのは、今年開催が予定されるヘビー級トーナメントではないだろうか。格闘技の華とも言えるヘビー級。さらに、海外にプロのリングを求めている石井慧はDREAMにとってどうしても欲しい存在だ。石井のヘビー級トーナメント参戦でDREAMの存在感を示せるか。
(写真:ミドル級の初代王者となったゲガール・ムサシ)
 現在、石井が目指しているのはDREAMではなく、UFC(Ultimate Fighting Championship)。アメリカに母体を置く世界最高の総合格闘技団体だ。石井が公言する“60億分の1”までの道程は長く険しいことが予想される。柔道で頂点を獲っただけに寝技への適性は高い。課題とみられる打撃も、柔道の組み手争いの経験を考慮すれば戸惑いは少ないはずだ。石井の総合格闘家としての成功は柔道の経験を生かすことにあるのではないだろうか。いずれにしても夏ごろと噂されるデビュー戦が待ち遠しい。

 DREAMの09年の注目選手としてはミルコ・クロコップ(クロアチア)の名前を挙げたい。先日のDynamite!!でチェ・ホンマン(韓国)相手に総合ルールでKO勝ちしたのは記憶に新しいが、ホンマンがK-1を主戦場にしていることもあり、この勝利がミルコの復活を印象づけるには至らなかった。ミルコはホンマン戦後、ヒザの十字靭帯の手術で半年以上の戦線離脱を表明している。今年、予定されるヘビー級トーナメントには間に合うのか。出場すれば、優勝の候補の一角に名を連ねるはずだ。さらにはトーナメント制覇の先にある宿敵エメリヤーエンコ・ヒョードル(ロシア)との激突ということになれば、日本はもちろんのこと、世界中の格闘技ファンがDREAMのリングに釘付けになるだろう。ミルコのハイキックは“皇帝”を引きずり出せるのか。一日も早い復活が待ち望まれる。

 “新エース”北岡悟の快進撃は09年も続くのか 〜戦極〜 

 一方の戦極も6度興行を開催し、ミドル級、ライト級でトーナメントが行われた。1月4日の「戦極の乱」ではミドル級トーナメント王者ジョルジ・サンチアゴ(アメリカン・トップチーム)に三崎和雄(GRABAKA)が、ライト級トーナメント王者北岡悟(パンクラスism)に五味隆則(久我山ラスカルジム)がタイトルマッチで敗れた。この2人のトップファイターは戦極が旗揚げから階級のエースとして据え、タイトルマッチに送り込んだファイター。さらにヘビー級エースの吉田秀彦(吉田道場)も菊田早苗(GRABAKA)に苦汁をなめさせられた。2年目として真価が問われる今年、日本人エースの巻き返しなくして戦極の成功はあり得ない。

 08年の戦極MVPは先の戦極の乱でライト級のベルトを巻いた北岡ではないだろうか。08年、戦極のリングで5戦5勝4KO。奪ったKOはすべて関節技という生粋のグラップラーは2年目の戦極のリングでも頂点に君臨し続けることができるのか。

 注目はバダ・ハリと魔裟斗、そして佐藤 〜K-1〜 

 08年のK-1のリングは大きな盛り上がりをみせた。MAXのリングでは魔裟斗(シルバーウルフ)が、佐藤嘉洋(フルキャスト/名古屋JKファクトリー)との激闘の末に、5年ぶりの戴冠を果たす。一方、ヘビー級グランプリではバダ・ハリ(モロッコ)が決勝で前代未聞の反則負けとなった。一時は1年間の出場停止も検討されたバダ・ハリだが、「Dynamite!!」に出場。総合家のアリスター・オーフレイム(オランダ)にK-1ルールで屈辱のKO負けを喫した。前代未聞の騒動を起こした“悪童”は09年グランプリではどのような戦いをみせるのか。魔裟斗とバダ・ハリ。08年のヒーローとヒールのファイトからは今年も目が離せない。
(写真:大晦日の「Dynamite!!」、オーフレイムにダウンを奪われたバダ・ハリ)

 今年期待したいのが魔裟斗をあと一歩のところまで追い詰めた佐藤だ。昨年の“世界3位”で自らの地位を高めたが、大晦日にはアルトゥール・キシェンコ(ウクライナ)に判定負け。“魔娑斗撃破”に向けて水を差してしまった。ミドル級らしからぬ長身とリーチを生かした戦法に磨きをかけて、もう一度頂点に挑んで欲しい。

 長谷川穂積が進むチャンピオンロードやいかに 〜ボクシング〜 

 日本ボクシング界にとって、この年末年始は辛い現実をつきつけられた。大晦日に坂田健史(協栄)、1月3日に小堀佑介(角海老)が王者として臨んだタイトルマッチで敗れ、ベルトを失う。この結果、現在の日本人世界王者は5人となった。そんななか、09年最も期待がかかるボクサーの一人として長谷川穂積(真正)を挙げたい。08年には3度防衛を果たしV7にまで数字を積み重ねた。しかもここ2戦は連続2回KOと充実ぶりをみせている。長谷川には具志堅用高の持つV13の日本記録、2階級制覇、アメリカ進出と無限の可能性が広がる。次戦は3月にも同級1位の指名挑戦者ブシ・マリンガ(南アフリカ)を迎え撃つ予定だ。09年も日本のエースの戦いに注目したい。
(写真:6月には2RKOの圧勝で防衛を果たした長谷川)

 さらにボクシングファンが注目するのがフェザー級のホープの二人だろう。榎洋之(角海老)と粟生隆寛(帝拳)。昨年無敗で挑んだ世界初挑戦で惜しくも敗れた二人の世界最挑戦は年内に行われる可能性が高い。敗北を知った“天才”粟生と“努力の男”榎の逆襲が見たいところだ。

(松本崇志)