WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)決勝は日本時間24日、日本代表が韓国代表を5−3で破り、2大会連続の優勝を果たした。日本は3−3の同点で迎えた延長10回、イチローのタイムリーで勝ち越し。最後は9回に同点打を許したダルビッシュ有が試合を締めくくった。大会MVPは3試合に先発し、負けなしの3勝をあげた松坂大輔が前回大会に続いて受賞した。

 イチロー、4安打! 激闘に終止符
日本代表     5 = 001000110 2
韓国代表     3 = 000010011 0 (延長10回)
(日)岩隈−杉内−○ダルビッシュ
(韓)奉重根−鄭現旭−柳賢振−●林昌勇
本塁打  (韓)秋信守2号ソロ
(写真:イチローが最後に決めた!)
 宮崎での出航から37日、船は目指した港にたどりついた。決勝戦にふさわしい予想通りの好ゲーム。歓喜と失意を分けたものは紙一重だった。ただ、常に先手をとり続けた日本が最後に笑顔で航海を終えた。

 サムライジャパンを頂点に導いたのはこの男、イチローだ。2次ラウンドを終えての打率はわずか.212。世界を代表するトップバッターが役割をなかなか果たせず苦しんだ。「彼は孤独の中で戦っているのではない。彼を救う選手は他にもいる」。原辰徳監督が、そう語っていたように、ここまではイチロー以外の選手が日替わりヒーローとなってチームを牽引し、日本は決勝まで勝ち上がった。しかし、連覇というパズルを完成させるためには、欠くことのできないピース、それがイチローだった。そして、最後にピースはきれいに埋まった。

 この日は試合前から違っていた。ベンチ前でチームメイトと円陣を組み、「世界一、行くぞ!」と気合を入れた。初回の1打席目、高めに浮いたストレートを見逃さない。きれいにセンター前にはじき返した。第1打席にヒットを打ったのは、コールドで勝利した第1ラウンドの韓国戦以来。出塁は得点に結びつかなかったものの、日本は立ち上がりで先にリズムをつかんだ。

 両チーム無得点で迎えた3回、先頭の中島裕之がショートへの内野安打で出塁する。続く青木宣親のライナーはセカンドの正面を突いたが、名手・高永民がはじくミスで無死1、2塁。チャンスが大きく広がった。城島健司のサードゴロで1死1、3塁となり、打席には小笠原道大が入る。カウント1−1からストライクを取りに来たチェンジアップを強振すると、打球は1、2塁間を突破。大事な先取点が日本のスコアボードに刻まれた。

 しかし、韓国も粘り強い。5回、岩隈久志が低めに投じたスライダーをすくいあげたのはメジャーリーガーの秋信守。準決勝のベネズエラ戦でも一発を放った左打者の打球は、ぐんぐん伸びてセンターのフェンスを越える。昨季はシーズンでたった3本塁打しか打たれなかった右腕からのソロアーチ。試合は1−1の振り出しに戻った。

 韓国サイドに傾きかけた流れを再び呼び戻したのが背番号51だ。7回、先頭の片岡易之がヒットで出塁し、打席に入る。片岡がすかさず2塁へスチールしたのを見て、3球目、3塁線へセーフティーバント。ドジャー・スタジアムの青い芝に白球が転がると、俊足を飛ばして一塁ベースを駆け抜けた。勝ち越し点への執念が伝わるプレーに若きサムライが続く。2番の中島だ。積極的にバットを振り、2球目をレフト前へ。2−1。日本は待望の勝ち越し点を手にした。

 なおも日本は8回、岩村明憲の犠飛で1点を追加。岩隈は直後に李大浩の犠飛で1点を返されたが、2番手・杉内俊哉が後続を断つ。世界一まで、あとアウト3つ。スコアは3−2と1点差だ。緊迫の最終回、原監督が最終マウンドに上げたのは、ダルビッシュ有だった。「ダルビッシュは日本のエース」。そう信頼を寄せる指揮官は、抑えの藤川球児ではなく、22歳の右腕に最後を託した。

 ところが、ラスト3つのアウトが遠い。ダルビッシュは2次ラウンドの韓国戦で初回に3点を失った時と同様、力みからかコントロールが定まらない。1死からストレートの四球を与えると、怖い4番の金泰均にもカウントを悪くして歩かせる。岩隈から本塁打を放っている秋こそ、空振り三振に切ってとったものの、続く李机浩に投じたスライダーが甘かった。打球は無情にも三遊間をゴロで抜ける。2塁走者が生還し、試合は振り出しに……。あとワンアウトの壁を越えられず、日韓の最終決戦は延長戦に突入した。

 まったく見えなくなった連覇への航海図。それを、しっかり描き直したのがイチローだった。延長10回、内川聖一がつくり、稲葉篤紀が送り、岩村がつないでできた2死1、3塁のチャンス。韓国バッテリーはタイムリーを打っている中島を警戒したのか、イチローに勝負を挑む。

 だが、それが韓国の敗因となった。「これで打ったら、日本がすごいことになるなという絵を実況しながら打席に入った」。日米で3083本ものヒットを打った天才が韓国のクローザー林昌勇の速球と変化球に泥臭く食らいつく。ファール、ファール、ファール……。そして8球目。ついに、そのバットが林のシンカーをとらえた。「神が降りてきた」。打撃のお手本のようなセンター前クリーンヒット。2者が生還し、港は見えた。

「着実にいい状態になっている」
 快音の聞かれないイチローに対し、原監督は決して後ろ向きの答えをしなかった。当初の「3番・イチロー」構想こそ方針転換したものの、「1番ないし、3番。他の打順は考えていない」とトップバッター起用にこだわった。この日のイチローは4安打2打点。指揮官の思いに最後の最後で応えることができた。

「イチローが結果を残して、チームを引っ張る形が理想です」
 大会前、原監督はこうも言っていた。サムライジャパンの理想形、それが最終形に変わった。その時、連覇は夢ではなく現実になった。

○原監督
 すごいサムライが揃って、世界の強豪たちを打ち破ってくれた。1日、1日、チームがまとまって進化した。いい戦いができた。今日はゲームそのものが重かった。岩隈は最高にいい彼のピッチングができていた。打線も、もう少しうまい監督なら点がとれたかもしれないが、辛抱しながら戦ってくれた。あの(イチローの)センター前ヒットは生涯、忘れないでしょう。
 数多くの声援をいただいて、プレッシャーに押しつぶされそうになったこともあったが、こうやって勝てたことは日本球界にとっても、日本の国にとっても良かった。

○イチロー
 谷しかなかったが、最後に山を越えられて良かった。今回は苦しいところが始まって、苦しみを越えたらつらさがあって、つらさを越えたら痛みがあった。最終的にこうやって乗り越えて日本のみなさんに笑顔を届けられて良かった。(勝った後の場内一周で)ほぼイキかけました。
(決勝タイムリーは)僕は何か持っていますね(笑)。神が降りてきた。ここで打ったら日本はものすごいことになるなという絵を頭の中で実況しながら打席に入った。こういう時は結果が出ないものだが、(ヒットを打てて)壁を乗り越えた気がする。

○岩隈
 最後なので楽しもうと思っていた。堂々と投げることができた。(最終回で同点に追いつかれた時には)これが野球だと思った。絶対に勝ち越してくれると信じていた。イチローさんのヒットで勝利を確信した。(決勝の先発は)緊張したが、大役を任せてもらったことは自信になった。これをいい経験にして、野球人生に生かしたい。

○松坂
 今回(のMVP)は僕だとは思わなかった。岩隈君に悪い。内容はともかく勝つことが重要だったので、結果が残せて良かった。

(石田洋之)