2009年の総合格闘技を締めくくる「FieLDS Dynamite!! 〜勇気のチカラ2009〜」が12月31日、さいたまスーパーアリーナで開催された。このイベントをもって現役を引退する魔裟斗(シルバーウルフ)は、過去2戦2敗の宿敵アンディ・サワー(オランダ/シュートボクシングオランダ)に対し、4Rにダウンを奪うなど優位に試合を展開。KO勝利こそならなかったが、3−0の判定勝ちでラストマッチを白星で飾った。また柔道金メダリスト対決となった吉田秀彦(吉田道場)と石井慧の一戦は、吉田が経験の差をみせ、3−0の判定勝ち。石井の総合格闘技デビュー戦は黒星に終わった。
(写真:4R、魔裟斗の右クロスが炸裂! サワーがダウン)
 今回の「Dynamite!!」には、有明コロシアムで行われる予定だった「SENGOKU RAIDEN CHAMPIONSHIP(SRC)12」の中止に伴い、戦極の選手たちが参戦。DREAMとの全面対抗戦を実施した。最初はアテネ五輪銀メダリストの泉浩(プレシオス)が判定で柴田勝頼(LAUGHTER7)を下すなど、戦極側が3連勝。ところがDREAM側もメルヴィン・マヌーフ(オランダ/ショー・タイム)が三崎和雄(フリー) を一撃でマットに沈めて盛り返す。結局4勝4敗のタイで迎えた大将戦では、DREAMライト級王者の青木真也(パラエストラ東京)が戦極同級王者・廣田瑞人(フリー)の右腕をねじり上げて破壊。壮絶な結末でDREAM側が勝ち越した。

 毎年恒例となったK-1甲子園の決勝トーナメントでは新星が誕生した。高校1年生の野杁正明(至学館高)は、連覇を狙ったHIROYA(セントジョーンズインターナショナルハイスクール)を準決勝で撃破。決勝でも高校3年生の嶋田翔太(私立西武台高)からダウンを奪って判定勝ちをおさめ、初出場初優勝を達成した。一気にスターダムに躍り出た野杁は「今日優勝できたのは先生や先輩、道場の仲間に支えられた結果だと思う。この優勝で少しでも恩返しできて良かった」と喜びを語り、「これからはK-1 MAXで活躍していきたい」と更なる飛躍を誓った。

<魔裟斗、「一生殴り合いはしない」>

「悲しい気持ちはゼロだね、ゼロ」
 闘いのリングを降りた男に涙はなかった。むしろ、背負い続けてきた重荷を降ろしたようなさわやかな笑顔だった。4万5000人を超える観衆が固唾を呑んで見守ったメインイベント。「サワーとは絶対にかみ合う。ファンが望むバチバチの試合をしたい」。対戦カード発表での発言通り、立ち上がりから魔裟斗は攻め立てる。ワンツーで相手を後退させ、ローキックを打ち込んで流れをつくった。1Rはポイントでリードを奪った。
(写真:試合後は「今日、出発する時に初めて15歳でヨネクラジムに行ったことを思い出した」と格闘家生活を振り返った)

 しかし、スロースターターのサワーも徐々に本領を発揮。魔裟斗は変わらずパンチ、キックを繰り出すも、サワーがしっかり返し、互角の打ち合いを展開する。
「(魔裟斗は)最初に試合をした2006年のほうがタフできつかった。今年2回しか試合をしていないせいかリズムにも欠けていた。プレッシャーがあったのかもしれない」
 後半勝負に手ごたえを感じていたサワーだが、試合の行方を決定づけたのは4Rだった。ラウンド中盤、左フックにあわせた魔裟斗の右フックが顔面をヒット。178センチのオランダ人が後方に吹っ飛んだ。「ダウンをとれたことで、“ポイントでも勝ったな”と確信した。誰も文句のつけようのない勝利になった」。そう勝者が振り返れば、「ダウンをもらって、すべてがダメになった」と敗者もマットに倒れたことを悔やんだ。

 ただ、K-1WORLDMAXのファイナルに4年連続でコマを進めたファイターは簡単には終わらなかった。4Rも残り30秒となったところで、反撃の右フックが魔裟斗のあごの先端をとらえる。足がぐらつき、後退する魔裟斗。場内から悲鳴が上がる。サワーはここぞとばかりにラッシュをかけたものの、ラウンド終了のゴングが鳴り、千載一隅のチャンスを逃した。

「こんなに(パンチが)きいたのは初めて。これが最後でよかった」
 セコンドに抱きかかえられるようにコーナーへ戻った魔裟斗にファンの大声援が背中を押す。ファイター人生最後の第5ラウンド。頭のダメージは想像以上で、足はふらついていた。しかし最後の力を振り絞り、前に出る。危ない場面ではうまくクリンチで逃れる冷静さもみせ、ラスト3分間を闘い抜いた。

「最後にアイツにオレがリベンジするというストーリーなんです。オレが倒すという運命なんですよ」
 まさに自らが描いたシナリオ通りに現役生活を締めくくった魔裟斗は「今日でファイターとして引退するが、オレはまだ30歳。あと人生50年残っている。また新しいことにチャレンジしていきたい」とリング上で挨拶。「魔裟斗、最高!」の巨大フラッグも掲げられた会場では、妻の矢沢心さんらが花束を贈呈し、労をねぎらった。

「殴り合いの世界から卒業できてよかった」
 試合後の会見では将来の現役復帰の可能性を完全否定した。
「これ以上、続けたら(殴られすぎて)バカになると本当に思った。殴られるのは痛いもん。一生殴り合いはしない」
 今後について本人は明確にしなかったが、格闘技界のカリスマ的存在だけに芸能界からのオファーがくることは間違いない。
「みんなでのんびり年明けを迎えたい。たぶん無理だろうけど」
 新年から始まる第2の人生も忙しくなりそうだ。

<石井、ショックの敗戦 吉田は引退へ>

 注目を集めた石井のデビュー戦は、経験不足を露呈する結果に終わった。40歳の年齢もあり、スタミナで劣る吉田は、立ち上がりから打撃で攻めてきた。1年間のトレーニング期間があったとはいえ、スタンドでの打ち合いなら吉田に一日の長がある。石井は遅れ気味に飛んでくる右のフックに対応できず、何度も顔をゆがめた。「先輩のアゴにパンチを打ち込む」。そう豪語していた試合前から一転、ガードを固めるばかりで、前に足が出ない。
(写真:吉田の右フックが顔面をとらえる)

 2R以降は、足をとってのグラウンド勝負に活路を見出そうとするも、吉田は適度に距離をとり、反撃のチャンスを与えない。それでも石井が懐に飛び込んでくると、今度は首を抱えて動きを封じる。総合格闘技のルーキーは総じて手数が少なく、疲れのみえてきたベテランを追い詰めるには攻撃のバリエーションが乏しい。しかも、ラウンド終盤にはヒザを相手の急所に入れてしまい、試合が中断。石井が減点をとられ、ダメージ回復のためのインターバルが入ったことも吉田には有利に働いた。

 最終ラウンド、石井はようやく前に出たが、時すでに遅し。残り1分を切ったところで、逆に吉田が足をとって倒れこみ、時間をうまく使われた。修行の成果をまったく出せないままの完敗。期待外れの闘いぶりに観客からも落胆の声が聞かれた。本人は敗戦がよほどこたえたらしく、試合後の会見をキャンセル。「石井との試合が決まってから心に期するものがあった」と進退をかけてリングにあがった吉田は、「次が最後になるんじゃないかと思います」と次戦で第一線を退くことを表明した。

<青木、「確実に(腕を)折りにいった」>

 DREAMと戦極の対抗戦は新たな遺恨を残した。4勝4敗で迎えた最終戦、両団体のライト級王者の対決となった青木vs.廣田の一戦は、立ち上がりから青木がタックルでコーナーまで押し込み、テークダウンを奪う。その後、右腕をとって廣田の背中側へねじり、身動きをとれなくすると、上から乗りかかってさらに腕をひねり、完全に折ってしまった。
(写真:「(DREAMのイベントプロデューサー)笹原さんが“刺しに行け”と言ったから」と、今回の極め技を「笹原圭一2010」と命名した)

 目を覆うような内容にも、青木は「絞っている時点でバリバリ鳴っていたけど、(相手が)タップしなかった。それが彼なりの意地だったのかも。だから躊躇なく折りました」と平然とした様子。「今回は確実に折りにいきました」と“確信犯”だったことを明かした。

 そもそも今回のDynamite!!では川尻達也(T-BLOOD)とのタイトルマッチが予定されていた。それが戦極の参戦により延期となり、「(対戦を)壊されたことが今回のモチベーション」になった。試合後は興奮のあまり、横たわる廣田に向かって中指を立て、「失礼な態度をとったことは反省したい」と語ったが、「戦極を終わらせることができた。まぁ、最初から終わっているんですけど」と怒りは収まらないようだった。

 各試合の結果は以下の通り。

<K-1甲子園リザーブファイト>
〇藤鬥嘩裟(勇志国際高)
3R判定 3−0
×日下部竜也(愛知県立豊田高)

<第1試合> ※K-1甲子園準決勝
〇野杁正明(至学館高)
3R判定 3−0
×HIROYA(セントジョーンズインターナショナルハイスクール)

<第2試合> ※K-1甲子園準決勝
〇嶋田翔太(私立西武台高)
3R判定 2−0
×石田勝希(初芝立命高)

<第3試合> ※スーパーハルクトーナメント決勝戦
〇ミノワマン(フリー)
3R3分29秒 KO
×ソクジュ(カメルーン/チーム・クエスト)

<第4試合> ※K-1ヘビー級ワンマッチ
〇レイ・セフォー(ニュージーランド/レイ・セフォー・ファイト・アカデミー)
3R判定 3−0
×西島洋介(AK)

<第5試合> ※K-1甲子園決勝
〇野杁正明
3R判定 3−0
×嶋田翔太

<第6試合> ※DREAMvs.SRC対抗戦
〇泉浩(プレシオス)
3R判定 3−0
×柴田勝頼(LAUGHTER7)
(写真:泉は攻めあぐねたものの、総合2戦目で初勝利)

<第7試合> ※DREAMvs.SRC対抗戦
〇小見川道大(吉田道場)
1R2分54秒 TKO(レフェリーストップ)
×高谷裕之(高谷軍団)

<第8試合> ※DREAMvs.SRC対抗戦
〇郷野聡寛(GRABAKA)
2R3分56秒 腕ひしぎ逆十字固め
×桜井“マッハ”速人(マッハ道場)

<第9試合> ※DREAMvs.SRC対抗戦
〇メルヴィン・マヌーフ(オランダ/ショー・タイム)
1R1分49秒 TKO(レフェリーストップ)
×三崎和雄(フリー)

<第10試合> ※DREAMvs.SRC対抗戦
〇所英男(チームZST)
3R判定 3−0
×キム・ジョンマン(韓国/コリアン・トップチーム)

<第11試合> ※DREAMvs.SRC対抗戦
〇川尻達也(T-BLOOD)
3R判定 3−0
×横田一則(GRABAKA)

<第12試合> ※DREAMvs.SRC対抗戦
〇金原正徳(パラエストラ八王子/チームZST)
3R判定 3−0
×山本“KID”徳郁(KRAZY BEE)
(写真:金原の右フックが入り、前のめりに倒れるKID)

<第13試合> ※雷電杯
〇吉田秀彦(吉田道場)
3R判定 3−0
×石井慧(北京五輪柔道100kg超級金メダリスト)

<第14試合> ※DREAMvs.SRC対抗戦
〇アリスター・オーフレイム(オランダ/ゴールデン・グローリー)
1R1分15秒 KO
×藤田和之(藤田事務所)

<第15試合> ※DREAMヘビー級ワンマッチ
〇ゲガール・ムサシ(オランダ/レッドデビル・インターナショナル・ジュロージン)
1R1分34秒 TKO(レフェリーストップ)
×ゲーリー・グッドリッジ(カナダ/フリー)

<第16試合> ※DREAMvs.SRC対抗戦
〇青木真也(パラエストラ東京)
1R2分17秒 アームロック
×廣田瑞人(フリー)

<第17試合> ※魔裟斗引退試合 
〇魔裟斗(シルバーウルフ)
5R判定 3−0
×アンディ・サワー(オランダ/シュートボクシングオランダ)
(写真:「“負けました”という以外になんと言えばいいのか」と敗戦の弁を述べるサワー)