愛媛FCにとって5年目のJがスタートする。今季からギラヴァンツ北九州が加わり、J2は各クラブ2戦総当りの計38試合制となった。3戦総当り制だった昨季と比べると、13試合減り、1戦1戦の重要性は増す。昨季はシーズン途中にイヴィッツア・バルバリッチ監督が就任したものの、参入後ワーストの15位に終わっており、指揮官は「8位以上」を目標に掲げ、チーム改革に乗り出している。
(写真:7日の開幕戦で激突する愛媛・バルバリッチ、岡山・影山の両監督)
 まずクロアチア人監督が着手したのは、フィジカル面の強化だ。「ケガ人が多すぎて、攻撃のコマが足りなかった」と監督が振り返るように、ベストメンバーで臨めた試合が少なすぎた。開幕3連勝と好調なスタートを切りながら、夏場の第2クールは2勝2分14敗と大失速。望月一仁前監督の解任に至った。

 そこで、このオフは全選手にトレーニングメニューを渡し、体力づくりを指示。さらにフィジカルコーチも新設し、フラーノ・フルカッチュを招いた。以前、バルバリッチ監督が率いていたFCシロキ・ブリェーグ(ボスニア・ヘルツェゴビナ)ではフィジカル部門を受け持っており、指揮官の信頼は厚い。「ただ、走るのではなく、パーツごとに筋力を鍛えることに重点を置いている。昨年までと比べて練習量は変わらないが、筋肉の張り具合は少し違う」(DF三上卓哉)と選手も変化を実感している。

 さらに戦術面でも「分厚い攻撃、分厚い守備」をテーマに、従来の4−4−2の布陣から、4−3−3へとシステム変更も試みている。開幕に向けては4−4−2でチームを仕上げた形だが、監督は「選手がやるべきことをやれば適応できる」と相手や、起用選手によって、2つの布陣を使い分ける方針だ。より柔軟なスタイルで戦い方の幅は広がったと言えるだろう。ここまで実施したトレーニングマッチでは無敗。相手チームのレベルもさまざまで、すべてを鵜呑みはできないが、「計画していたことができた。チームには“やればできる”といういい雰囲気ができている」とバルバリッチ監督も手ごたえをつかんでいる。

 クラブが長年、抱えてきた課題は得点力不足である。昨季の総ゴール数54はリーグで下から数えて6番目。FW内村圭宏が18ゴールとひとり気を吐いたが、なかなか得点が生まれる雰囲気をつくりだすことができなかった。その内村がコンサドーレ札幌に移籍し、新たな攻撃の柱が必要な中、地元出身のストライカー福田健二には大きな期待が集まる。南米、欧州の各国でゴールを決め続けた世界を知る男は、昨年11月に加入が決まった。昨季は選手登録が締め切られており、公式戦でプレーできなかったが、「久々の日本のサッカーに慣れることができた。時間があったのは良かった」と、新チーム始動後は若い選手たちを牽引。キャプテンに就任するとともに、キャンプ初の実戦でいきなりゴールをあげるなど、名実ともにクラブの顔になっている。

 ところが、開幕を前にクラブに大きな衝撃が走った。前所属先のギリシャ・イオニコスから選手登録に必要な国際移籍証明書が届かず、福田の開幕戦出場が不可能になってしまったのだ。クラブは地元スターの愛媛デビューを見越して、この日のマッチシティを出身地である新居浜市に設定。スタジアムでは同市の特産品を販売し、小学校時代に所属していたサッカークラブの選手たちや地域住民が大勢、応援に駆けつける予定だった。まさに“福田デー”として開幕を盛り上げるプランだっただけに、主役の不在は大きな痛手だ。
 
 ただ、ピッチの中ではさほどの影響はないかもしれない。というのも、札幌から移籍したスピードが武器の石井謙伍、左足から豪快なシュートを繰り出すジョジマール、若い杉浦恭平など、タイプの異なる前線の選手が控えているからだ。誰がスタメンを務めても、互いの持ち味を生かした攻撃ができれば、得点のチャンスは増えるはずだ。

 守備陣も対人に強いアライール、経験豊富な金守智哉に、モンテディオ山形から小原章吾を獲得した。要であるセンターバックの選手層は厚くなっており、大きな不安はない。それだけに、攻守をスイッチする中盤の出来はひとつのポイントとなる。このポジションも、今季はブラジル人ボランチのドウグラス・リナルディを補強。ブラジル、スペイン、イングランドとサッカーの本場でプレーしてきたベテランだが、「コンディションが追いついていない」(バルバリッチ監督)のが懸念材料。技術は高く、監督も「理想は1.5列目、攻撃的なMFとして起用したい」と考えているだけに、どの程度、状態を上げられるか。もうひとりのボランチ・赤井秀一は年々、攻守とも存在感が増しており、彼が後ろから飛び出してゴールをうかがう展開になれば勢いがつく。

 クラブでは毎年、観客動員目標を1試合5000人に設定しているが、昨季は3,694人と遠く及ばなかった。J昇格を果たした5年前のように県民の注目をクラブに集めるためには成績の向上は不可欠だ。この春には新クラブハウスも完成するものの、愛媛は他クラブと比べれば経営規模も小さく、環境面でも不十分なところは否めない。「J1に行けるかもしれないという雰囲気にならないと、なかなか(出資者)県やスポンサーは動いてくれない」と亀井文雄社長も現場の奮起を望んでいる。

「8位は最低ラインの目標。やっている以上は昇格争いに絡み、上を狙いたい」(MF赤井)。J昇格後、ホームで開幕を迎えた年は3戦3勝中。今季のスタートを切る相手は昨年最下位だったファジアーノ岡山だ。まずは改革の途中経過を地元サポーターに結果で示したい。

(石田洋之)