ボクシングのWBC世界スーパーバンタム級タイトルマッチが24日、東京・両国国技館で行われ、王者の西岡利晃(帝拳)は挑戦者の同級1位レンドール・ムンロー(イギリス)を3−0の判定で下し、5度目の防衛に成功した。西岡はプレッシャーをかけて前に出てくる相手をうまくさばき、ボディ攻撃でダメージを与える。中盤以降は連打で挑戦者を棒立ちにさせるなど圧倒し、初防衛からの5連続KO勝利こそならなかったものの、いずれのジャッジも10ポイント差をつける完勝を収めた。
(写真:10R、ラッシュをかける西岡(左))
<右ジャブで主導権 「ほぼ完璧のボクシング」>

 試合後、西岡の右拳は中指のナックルが腫れ、血が噴き出していた。痛みは4Rくらいからあったという。それはこの試合で、紛れもなくチャンピオンが右のパンチを出し続けた証でもあった。

 サウスポー同士の対戦とあって、お互いに得意の左を警戒することは充分に予想できた。実際、ムンローは立ち上がりから右のガードを固め、容易に西岡の左を打たせなった。局面の打開策として磨いてきたのが右のジャブだ。「これまでは右で12ラウンド打ち続けるスタミナがなかった。それがようやく備わってきた」。防衛戦を前にそう語っていた葛西裕一トレーナーは右ジャブの効用を次のように明かす。

「ジャブにはリズムをとるだけでなく、相手の攻撃を邪魔したり、ディフェンスレーンをつくる効果がある。ジャブを繰り出していると、パンチを打たなくても、ジャブが出てくるレーンの中に相手は簡単に入ってこられない。それだけでこちらが主導権を握れるんですよ」

 果たして試合は、描いていた通りの展開になった。1Rから右のジャブをどんどん突き、前へ前へと出てくる挑戦者の行く手を阻んだ。相手も左のパンチを出す分、左のガードは空きやすい。そこへ細かくパンチを当て、あっという間に英国人の顔面は赤くなっていった。

「試合前は頭を押し付けてくるので(相手の腹は)遠いと思ったが、意外と近い」
 1Rでチャレンジャーの特徴をインプットした王者は距離を詰めてきた相手のボディを狙い打つ。2Rから左のレバーブローが何度もムンローを襲い、それが当たるたびに顔は苦痛にゆがんだ。

 しかし、相手は22戦してわずか1敗のファイター。イギリスではゴミ収集の仕事に従事しており、「ブルーワーカーの星」と呼ばれるヒーローだ。西岡がジャブ、ボディと上下にパンチをいくら散らしても相打ち覚悟で突進してくる。「普通のボクサーならつかまっちゃう。2Rくらいにはつかまっちゃうかなと思ったよ」と帝拳ジムの本田明彦会長も漏らすほど挑戦者は勇敢だった。

 それでも「ジャブを突いて、(相手のパンチ)外に外して、内に外して、左につなぐ。思い描いていたほぼ完璧のボクシングができた」と振り返るチャンピオンは一枚、上手だ。頭もろとも突っ込んでくればアッパーで起こし、次第に大振りになるパンチを冷静にかわす。8R終了時の公開採点では大差がつき、一発をくらわなければ勝利は確実な情勢だった。残りは安全運転で乗り切っても問題はない。だが、西岡は果敢に打って出た。「いつもKOは意識していない」と語る王者が、明らかにKOを狙っていた。  
 
 10Rではレバーブローにひるんだ相手をローブ際に追い詰め、連打を浴びせる。11Rも最終Rも幾度となくラッシュをかけた。そのうち、どれか一発でも急所に入っていれば、間違いなくムンローはマットに横たわっていただろう。
(写真:出血した右の拳に加えて左手も痛め、試合後はアイシングをしていた)

「最後の連打はコンビネーションで倒せるよう、左右をバランスよく出す練習をしてきた成果。倒れなかったムンローを褒めるしかない」
 葛西トレーナーは挑戦者のタフさに舌を巻いた。西岡自身も「(観客は)5連続KOを望んでいたと思う。スミマセンでした」と苦笑いしつつ、「たぶん、ファイタータイプに最高の試合ができたと思う」と試合内容には満足そうだった。

 5度の防衛はジムの大先輩・大場政夫(元WBA世界フライ級王者)に並んだ。本田会長は「将来的には」と前置きした上で、長谷川穂積(元WBC世界バンタム級王者)のV11を阻んだフェルナンド・モンティエル(メキシコ)との防衛戦も計画している。「ワクワクする試合をしたい」と話す王者も、この話には「望むところ。ぜひやりたい」と乗り気だ。

「パパは誰にも負けないぞ!」
 愛娘の小姫ちゃんには、そうリング上で祝福された。これからも誰にも負けないパパであり続けるために、西岡は歩みを止めない。そして、次はもっと強い相手を倒してみせる。

(石田洋之)