ボクシングのダブル世界タイトルマッチが26日、さいたまスーパーアリーナで行われ、WBAバンタム級王座決定戦では、同級2位の亀田興毅(亀田)が同級5位のアレクサンデル・ムニョス(ベネズエラ)を3−0の判定で下し、新王者となった。亀田興は既にWBAライトフライ級、WBC世界フライ級のタイトルを獲得しており、日本人初の3階級制覇を達成した。またWBA世界フライ級タイトルマッチでは王者の亀田大毅(亀田)が挑戦者の同級13位シルビオ・オルティーヌ(ルーマニア)を2−1の判定で破り、2度目の防衛に成功した。
(写真:3つのベルトとともに3階級制覇のポーズをとる亀田興)
<亀田興、第2章のスタート>

 ひとつの夢が叶った。日本人初の3階級制覇。「(今の気持ちは)言葉がないな」。12Rの闘いを終え、興毅はホッとした表情をみせた。
 相手のムニョスは日本人キラーとして知られる。過去、日本で7度、世界戦を闘い、1度も負けなし。「パンチは重いうえに固い。振りも大きい」と興毅が振り返ったように、どんどん攻めてきた。

 だが、今年、一度引退し、31歳になる元王者に往年の輝きはなかった。パンチに鋭さはなく、空を切るケースが目立った。次第に細かくパンチを繰り出す興毅のスピードが上回るようになる。4Rにはカウンターの右フックで、ムニョスの腰が落ちると、以後、何度もパンチをヒットさせ、相手をよろめかせた。
「(亀田は)特に印象はない。日本人で一番強かったのはセレス小林。亀田は調整がうまくいっただけ」
 ベネズエラ人はそう強がったが、判定でも最大8ポイントの大差をつけられた。

 見せ場をつくったのは最終12Rだ。雄叫びを上げて気合を入れると、ムニョスに猛然と突進。コンパクトに連打すると、かつてはデビュー以来23連続KO勝ちを収めてきた男が尻もちをついた。
「満足はしていないけど、最後、お客さんの期待に応えてよかった」
 ポイントでは明らかにリードしながら、KO寸前まで持ち込んだところに成長がみえた。
(写真:ムニョスは「ダウンではない」と主張したが後の祭りだった)

 日本人初の偉業とはいえ、タイトル戦はすべて判定勝利。不可解な判定で3階級制覇を逃したファイティング原田氏(元世界フライ級、バンタム級王者)の時代と比べれば、階級区分も細かくなり、団体も分立している。今回も正規王者のアンセルモ・モレノ(パナマ)がスーパー王者に昇格したことに伴う世界戦だった。記録の価値に疑問符をつける者も少なくない。

 その評価を覆すには本人が拳で強さを証明するしかない。「思っているボクシングができんかった。内からコンパクトにまとめて、と考えてたけど、スパーリングでできてたことができへんかった」と試合後は謙虚に反省の言葉が出た。興毅は3階級制覇の看板を引っさげて、さらなる強敵とのビッグファイトを望んでいる。スーパーフライ級で4階級制覇を狙う野望もある。
「次からが自分のベルトを獲りに行く時。勝負の年になると思う。今日はゴールであり、スタート。これからが亀田興毅の第2章になる」
 日本人初の3階級王者の真価を問われる新たな1年が間もなくやってくる。

<亀田大、際どい判定勝ち ベルト返上へ>

 ジャッジの採点結果を聞いた瞬間、頭の中にクエスチョンマークがいくつも浮かぶ試合だった。1人のジャッジが8ポイント差の大差をつけてオルティーヌを支持した一方、他の2者は2ポイント差、4ポイント差で大毅を支持。ここまで大きく見方が分かれるのも珍しい。

 手数だけを評価するのであれば、オルティーヌの圧勝だ。左のボディやジャブから右の打ちおろし気味のストレートを繰り出し、常に先手先手で攻めた。6Rには大毅も左のボディで相手の動きを止めたが、守勢にまわる展開が多く、場内の大毅コールも徐々にトーンダウン。1万人を超える観客が本当にいるのかと思うほど試合は盛り上がらなかった。
「少なくとも亀田が5ポイントマイナスのはず。おかしい」
 相手陣営のトレーナーが納得いかないのも当然だろう。

「(内容は)良くないですね。ベルトを守れたから良かった」
 試合後の大毅に笑顔はなかった。減量苦で戦前からフライ級では最後の試合になることを宣言していた。1週間、食べられない日が続き、兄・興毅によると「(体重を減らすため)血を抜こうかと言うてたくらい」の状態だったという。「8Rで足がつった。減量の影響があると思う」。その8Rには、ガードを下げて相手を挑発したものの、傍目には休んでいるようにも映った。ランキング13位で世界初挑戦のボクサーが相手でなければ、もっと危ない展開になっていたはずだ。
(写真:「試合よりも練習のほうがしんどかった。今はゆっくり休みたい」と語る)

 大毅は「ベルトは返上したい」と明かし、次戦では2階級アップを示唆した。「ベストな体重、ベストなコンディションで試合をしたい」。フライ級では結局、ベルト奪取から3試合ともKO勝利を果たせなかった。減量は言い訳にできない上の階級で、兄同様、周囲を納得させる強さを証明しなくてはならない。