2010年の格闘技を締めくくる「FieLDS Dynamite!! 〜勇気のチカラ2010〜」が31日、さいたまスーパーアリーナで開催され、全14試合(不戦勝の1試合除く)が行われた。メインイベントとなったDREAMフェザー級タイトルマッチでは、挑戦者の高谷裕之(高谷軍団)が王者のビビアーノ・フェルナンデス(ブラジル/レボリューション・ファイトチーム)を3−0の判定で破り、念願の王座を獲得した。同ウェルター級タイトルマッチでは、桜庭和志(LAUGHTER7)が王者のマリウス・ザロムスキー(リトアニア/LONDON SHOOT FIGHTERS)に挑んだが、試合途中で右耳が裂け、無念のドクターストップ。ミドル級からウェルター級に転向しての戴冠はならなかった。
(写真:石井はバンナに対し、得意のグラウンド勝負に持ち込んだが決めきれなかった)
<石井、ブーイングにも前向き>

 判定結果が出た瞬間、場内はブーイングの嵐だった。ジャッジは3−0。石井慧(アイダッシュ)は“K-1番長”ジェロム・レ・バンナ(フランス/Le Banner X tream Team)を寝技で封じ込んだ。内容的には明らかに石井の勝ちだった。それでも観客の心はつかめなかった。

「負けたら何にもならない。負けて正月3が日をジャムパンだけで生活するのは、もうイヤ」
 本人にとっては何が何でも勝ちたかった一戦だった。昨年の大晦日、ベテランの吉田秀彦にいいところなく敗れ、失意の谷に突き落とされた。それから1年、海外で経験をつみ、プロのリングでは3連勝。2010年は本人の言うとおり、「ちょっとずつ起き上がってきた」1年だった。
(写真:「1日1日、一歩一歩を大切にしていきたい」と新年の抱負を語る)

 その最後を締めくくる試合は、強打を誇るバンナが相手。打撃に課題があると言われてきた石井には真価の問われる闘いだ。まともに打ち合っては勝てないと見たのか、立ち上がりから組みついて、グラウンド勝負に持ち込む。
「作戦が良かった。自分の打撃をうまく避けていた」
 バンナは総合ルールでの試合は4年9カ月ぶりとあって、寝転がっていては持ち味が出せない。2Rの後半に馬乗りになって場内を沸かす場面はあったが、その他の時間帯は石井のペースだった。
「パンチをもらったけど、そんなに効かなかった。ちょっとは自信になった」
 本人も手ごたえをつかんだ試合にはなった。

 ただ、得意の展開から勝ちきれなかったところに不完全燃焼の感は否めない。
「最初にK-1選手の打撃というので、肩に力が入ってしまった。腕や足を取るときには(自分の)腕がパンパンで力が入らなかった」
 2Rにはアキレス腱固めを、最終3Rにはアームロックをしかけようとしたものの、バンナに逃げられ、決め手を欠いた。
「ブーイングは応援の裏返し。それだけ期待していただいているということ。次は一本、KOで勝ちたい」
 石井は観客の厳しい反応を素直に受け止め、前を向いた。

 デビューから1年、柔道金メダリストとして世間の認知度も高く、格闘技界を背負って立つ存在として石井に対する期待は小さくない。この日、同じリングで圧倒的な強さをみせたアリスター・オーフレイム(オランダ/ゴールデン・グローリー)と張り合うところまで、いかにレベルアップできるか。新年のテーマははっきりと見えた。

<自演乙、青木を病院送り>

 衝撃的な結末だった。2R開始のゴングが鳴った直後の出来事だ。タックルして倒そうと体勢を低くした青木真也(パラエストラ東京)の顔面を長島☆自演乙☆雄一郎(魁塾)ヒザで蹴り上げた。これが見事に決まり、青木が横に崩れ落ちる。そこへ乗りかかった長島は拳を何度も上から振り下ろした。この間、わずか4秒。青木はすぐに立ち上がることができず、病院に直行した。

「感想も何もありえへんでしょう? 自分でもビックリしています」
 本人も驚きを隠せない劇的な勝利だ。世界有数のグラップラーとしてDREAMライト級王者に君臨する青木と、今年のK-1 WORLD MAX 2010 -70kg Japan Tournamentを制した自演乙の異色マッチ。1RがK-1ルールで3分、2RがDREAMルールで5分という変則スタイルで試合のゴングが鳴った。

 2Rまで持ち込めば圧倒的優位に立つ青木は、立ち上がりからクリンチを多発。さらにはミドルキックやドロップキックを連発して倒れこみ、時間を稼いだ。
「アップでそういう動きをしていたとまわりまわって聞いていた」
 思うように攻められないまま、ラウンド終了のゴング。1Rの打撃で早期決着に持ち込みたかった自演乙にとっては不利な状況に立たされた。
(写真:青木はレフェリーから技の掛け逃げを注意されるも飛び蹴りを繰り返した)

「正直、総合ルールでは勝てないと思った。相手は世界一のグラップラーで世界王者。でも、僕も往生際が悪い。立ち技は白帯じゃない」
 最後のチャンスは2Rのファーストコンタクト。イメージしていた勝負手が見事にはまった。
「2010年のK-1MAXの日本チャンピオンは、もう終わってしまう。来年の日本トーナメントで活躍してやろうと思っていたが、今日の闘いで2011年も自演乙の年になる」

 入場時のコスプレが話題を呼び、今大会にはコンピューターゲームやアニメーションの制作会社が協賛に名を連ねた。名実ともに、長島☆自演乙☆雄一郎は日本の格闘技界で欠かせない存在になりつつある。

<オーフレイム、“3冠”達成>

 強さを改めて証明して場内を盛り上げたのはアリスター・オーフレイムだ。トッド・ダフィー(米国/グラッジ・トレーニング・センター)とのDREAMヘビー級暫定王座決定戦は立ち上がりこそ押し込まれるが、すぐに反撃に転じ、相手のボディにヒザ蹴りを見舞う。ダフィーがひるんだスキを逃さず、今度は左右の連打。まともにくらった米国人はマットに沈んだ。
(写真:なすすべなく敗れたダフィーは「自分は才能ある選手だと思っているが、それを見せられなかった」と強がった)

 UFCで7秒KOの最短記録を持つ強敵を、あっさりと19秒で秒殺。これで先日初優勝を果たしたK-1 World GPに加え、Strike Force、DREAMと“3冠”を達成した。「自分に挑戦したいという選手がいれば、誰でも闘う」。もはや世界最強といっても過言ではない男は、新たな挑戦者を待ち望んでいた。
 
 各試合の結果は以下の通り。 

<第1試合> ※アントニオ猪木プレゼンツIGF特別ルールヘビー級ワンマッチ
〇鈴川真一
不戦勝(ボブ・サップの戦意喪失)
×ボブ・サップ(米国/チーム・ビースト)

<第2試合> ※DREAMウェルター級
〇アンディ・オロゴン(ナイジェリア/チーム・オロゴン)
3R判定 3−0
×古木克明(SMASH)

<第3試合> ※DREAMフェザー級
〇宮田和幸(BRAVE)
3R判定 3−0
×宇野薫(フリー)

<第4試合> ※DREAMフェザー級
〇所英男(チームZST)
3R2分50秒 腕ひしぎ逆十字固め
×渡辺一久(フリー)

<第5試合> ※DREAM無差別級
〇泉浩(プレシオス)
3R2分50秒 TKO(セコンドタオル投入)
×ミノワマン(フリー)
(写真:大会前は石井との対戦を希望していた泉だが、試合後は「機会があれば」と素っ気なかった)

<第6試合> ※DREAMヘビー級
〇セルゲイ・ハリトーノフ(ロシア/ゴールデングローリー)
1R1分25秒 KO
×水野竜也(フリー)

<第7試合> ※K-1ヘビー級
〇ゲガール・ムサシ(オランダ/Team Mousasi)
3R判定 3−0
×京太郎(チームドラゴン)

<第8試合> ※DREAM特別ルール
〇長島☆自演乙☆雄一郎(魁塾)
2R4秒 KO
×青木真也(パラエストラ東京)
(写真:試合後は入場の際のコスプレダンサーたちと、マンガやアニメを規制する東京都の青少年育成条例に反対を訴えた)

<第9試合> ※DREAMヘビー級暫定王座決定戦
〇アリスター・オーフレイム(オランダ/ゴールデン・グローリー)
1R19秒 KO
×トッド・ダフィー(米国/グラッジ・トレーニング・センター)

<第10試合> ※DREAMヘビー級
〇石井慧(アイダッシュ)
3R判定 3−0
×ジェロム・レ・バンナ(フランス/Le Banner X tream Team)

<第11試合> ※DREAMウェルター級タイトルマッチ
〇マリウス・ザロムスキー(リトアニア/LONDON SHOOT FIGHTERS)
1R2分16秒 ドクターストップ
×桜庭和志(LAUGHTER7)

<第12試合> ※K-1 MAXライト級
 西浦“ウィッキー”聡生(STGY)
3R判定 ドロー
 大和哲也(大和ジム)

<第13試合> ※DREAMウェルター級 
〇ジェイソン・ハイ(米国/Team Bodyshop)
3R判定 2−1
×桜井“マッハ”速人(マッハ道場)

<第14試合> ※DREAMライト級
〇川尻達也(T-BLOOD)
3R判定 3−0
×ジョシュ・トムソン(米国/アメリカン・キックボクシング・アカデミー)

<第15試合> ※DREAMフェザー級タイトルマッチ
〇高谷裕之(高谷軍団)
3R判定 3−0
×ビビアーノ・フェルナンデス(ブラジル/レボリューション・ファイトチーム)
(写真:最終3R、パウンドで形勢を逆転させた高谷)