NPBもアイランドリーグもシーズンの開幕まで約2カ月。今季、リーグからは過去最多タイの6名が新たにNPBの門をくぐり、計19選手が1軍で活躍するべくキャンプを終えた。彼らの動向もリーグの行方ともに、ファンは気になるところだ。NPB入りというひとつの夢を叶えた選手たちは、新たなシーズンにどのように臨もうとしているのか? その今を追いかけた。
 足のスペシャリストに――生山裕人

「これまでは足を生かすといってもボヤッとしていた。今は“足で生きる”“足だけは誰にも負けない”という方向性がはっきりしました」
 前をしっかり見据えて生山は語り始めた。

 昨季は2軍の試合で37試合に出場しながら、盗塁はわずかに4個。盗塁死は逆に3つもあった。足をウリにしなくてはいけない選手としては寂しい数字だった。
「このままじゃマズイ」
 時間をみつけては、パ・リーグの盗塁王、片岡易之(埼玉西武)の走りをyou tubeなどで研究した。その中で片岡が盗塁数を飛躍的に伸ばした背景に陸上トレーニングがあることを知った。思い立ったら、すぐ行動だ。本屋に行って陸上の技術本を買い、自分なりに速く走るための方法論を研究した。

 そして、ひとりの指導者に出会う。福島大の川本和久教授だ。走幅跳の日本記録を持つ井村久美子や、400mの日本記録保持者の丹野麻美らを育てた陸上界の名伯楽である。
「僕はスタートをどうにかしたいんですけど……」
 率直に悩みを相談すると、快く練習に受け入れてくれた。自主トレ期間中の1月、生山は沖縄に渡り、陸上トレーニングを敢行した。

「陸上って自分の体ひとつで勝負する世界。だから体の使い方をすごく研究しているんです。野球はバットとかグローブとかボールとか道具があるせいか、ここまで自分の体と真剣に向き合ったことはなかったですね」

 ロケットスタートを切るコツは重心の移動にある。スタート時に体を前に倒すと、それを支えようとして勝手に足が出る。この動作により前へ進むスピードを得るのだ。1週間ほどの練習参加で自分でも足が速くなった実感がつかめた。打った後にいかに走る体勢をつくるかもアドバイスを受けた。その成果は実戦で披露するつもりだ。

 足を生かすために一昨年の秋からはスイッチヒッターに転向している。奇しくもロッテは1軍の西村徳文監督、2軍の高橋慶彦監督もスイッチで成功した選手だ。ただ、右打ちに取り組むのは中学生以来。両打ちを極めるにはそれなりの時間がかかる。
「まだまだ右はアマチュアレベルです。まず右打席からの景色にも慣れない。真っすぐだけならどうにかなりますが、変化球が来るとなかなか対応できません」

 この秋からは内野だけでなく、外野守備にも挑戦した。バッティングもとにかく打球を転がすことに徹して練習している。育成選手も、もう3年目。生き残るためにはわずかなチャンスも逃すわけにはいかない。
「陸上の練習に参加して、他競技の方とも交流できたことは刺激になりました。陸上の選手はすごく自分を見つめて競技に取り組んでいる。野球はチームスポーツですけど、やはり、まずは自分がうまくなることを追求することが一番なんだなと改めて感じました」

 野球が大好きでプレーしていたクラブチーム時代から、アイランドリーグを経て、いつしか趣味が仕事になっていた。プロとして野球にどう向き合うべきか。どうすれば競争を勝ち抜いて支配下登録されるか。そんなことを考えているうちに、自分自身を見失っていた、と生山は考えている。

「すべては足を生かすためにプレーする。今は自分が何をすべきか、はっきりと見えてきました。スッキリした気持ちでシーズンに臨めそうです」
 アイランドリーグ時代から続けてきた全力疾走は、ロッテに来てからも怠っていない。もう迷うものは何もない。あとは自分の信じた道をまっすぐに走りきるだけだ。

(石田洋之)