素手で殴り合い、素足で蹴り合う。身を守る防具は一切ない。

 フルコンタクト空手のオープントーナメント「全世界空手道選手権大会」の王座に25歳の島本雄二が就いた。死闘の末の「世界一」だった。

 

 

 決勝の相手は昨年10月の全日本選手権決勝で相まみえた20歳の入来建武。試合は再延長にもつれ込み、3対2の旗判定で島本に軍配が上がった。

「うれしいというよりもホッとしました。入来選手は今まで戦った中で一番強かった。いつもなら下がったり手が出なくなったりするのに、今回は最後まで攻めてきた。

 

 しかし、僕なりの手応えはありました。(相手の)下段蹴りに対して、ボディへのストレートを合わせることができた。相手の攻撃も、最後まで見えていました」

 

 トーナメントの山を登り切るには、ダメージを最低限にとどめなくてはいけない。初日に2試合、2日目に5試合の計7試合を戦い抜いて、世界の頂点に立った。

「勝ち上がるには、なるべく疲労を溜めないようにしないといけない。今回は大きなダメージを受けることなく決勝まで進むことができた。それも優勝できた原因のひとつだと思っています」

 

 広島県呉市の出身。父親が指導する道場で6歳の時に空手を始めた。4歳年上の兄・一二三の背中を見て育った。

「4つの違いは大きいですよ。お兄ちゃんとスパークリングをやると、もうボコボコ。兄弟ゲンカも子供の頃にはしょっちゅうやりましたが、僕は殴られっぱなし。たまにやり返すと、その100倍返し(笑)」

 

 格闘技の世界には兄弟での成功例が多い。相撲の若貴(横綱・若乃花と横綱・貴乃花)、柔道の井上康生と智和の例などが知られている。ボクシングでは亀田3兄弟(興毅、大毅、和毅)が揃って世界チャンピオンになった。

 

 兄を乗り越えようとする弟。そうはさせじと踏ん張る兄。双方の「負けたくない」との思いがライバル心を育むのだろう。

 

 今回の世界選手権では、兄・一二三も5位に入った。文字通り最強の兄弟である。

 

 周知のように先頃、2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会は新たに5競技18種目を国際オリンピック委員会(IOC)に提案することを決めた。

 

 野球・ソフトボール、スケートボード、スポーツクライミング、サーフィンとともに空手も選出された。

 

 ところが空手の場合、プロテクターを着けてのセミコンタクトが実施種目に採用される見通しでフルコンタクトは見送られた。

 

 もっともこれは、まだ最終決定ではない。なぜなら組織委が持っているのは「提案権」であって、「承認権」はIOCが保持しているからだ。そのため正式決定は来年8月のIOC総会まで待たなければならない。

 

 全日本フルコンタクト空手道連盟の緑健児理事長は「フルコンタクト空手の五輪種目化も私たちの夢。その活動は今後も続けていきます」と語っている。悲願はかなうのか。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2015年11月29日号に掲載されたものです>

 


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