「○○経由、○○行き」

 日本サッカーでのこの表現は、23歳以下の代表選手に対して五輪がゴールではなく、その先にある2年後のW杯を目指していこうというものだ。FW大久保嘉人やMF松井大輔らが中心となった2004年アテネ五輪代表の山本昌邦監督が「アテネ経由ドイツ行き」と選手たちに語ったことがクローズアップされ、今も使われている。

 

 実際、アテネ五輪からドイツW杯メンバーに入ったのはDF駒野友一とDF茂庭照幸の2人のみだった。その後「北京経由南アフリカ行き」はDF長友佑都、DF内田篤人、FW岡崎慎司、MF本田圭佑、FW森本貴幸と5人に増えた。さらに「ロンドン経由ブラジル行き」となると、MF清武弘嗣、MF山口螢、DF酒井高徳、DF酒井宏樹、FW齋藤学、GK権田修一と6人になった。

 

 リオ五輪が開催される今年。「リオ経由ロシア行き」を果たすのは一体誰か――。

 

 その一番手と聞かれれば、鹿島アントラーズのDF植田直通を挙げたい。

 高くて強くて速い。186cmのガッチリとした体格で対人に滅法強い。ドーハで行なわれた先のリオ五輪アジア最終予選では、初戦の北朝鮮戦でCKから右足で決勝ゴールを挙げた。チームに勢いをもたらせたほか、守備陣を統率して五輪切符獲得とアジア制覇に貢献した。

 

 帰国して鹿島に戻ってからもパフォーマンスが非常に良い。

 ホーム開幕戦となった3月5日のサガン鳥栖戦ではエースのFW豊田陽平にほとんど仕事をさせなかった。個の強さばかりが目立っていた以前と違って「周りと連係する。周りを動かす。周りを活かす」ところが目につくようになった。ドーハでの経験値をうまく活かしているような印象を受ける。

 

 鹿島の大先輩であるサッカー解説者の秋田豊氏が、2014年のルーキー時代に絶賛していたのを思い出す。

「持っているものは、もう計り知れないよ。高さがあってスピードがあって、ボールがしっかり蹴ることができる。ワンステップで70m蹴っちゃうし、素材はワールドクラスだよ。世界に勝つにはこういう選手が出てこなきゃって思わせてくれる」

 

 2年目の昨シーズンはDFファン・ソッコにポジションを奪われてしまったものの、己に足りなかった要素を地に足をつけて向上させてきたように思える。その成果として試合を読む力、周りを動かしていく力などが最終予選であり、3年目のシーズンインに表れている。

 

 植田以外にもU-23代表のキャプテンを務めるDF遠藤航、圧倒的なスピードで「ジャガー」の異名を持つFW浅野拓磨、海外で活躍するFW南野拓実、FW久保裕也らリオ世代には実に楽しみなタレントが多い。

 

 ただチームでレギュラーを獲得している選手がまだまだ少ないと言える。

 

 ポジションは与えられるものではなく、自分で奪っていかなければならない。「リオ経由、ロシア行き」を果たすには、「チームでしっかり試合に出る」が大前提となる。その意味で植田自身もまずは鹿島で定位置を確保しなければならない。

 

 若い世代の突き上げがあってこそ、ハリルジャパンも押し上げられる。

 

 五輪本大会のメンバー争いも熾烈になってくる今こそリオ世代の奮起が求められる。


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