日本サッカー協会(JFA)は4月から新体制に移行。FIFA(国際サッカー連盟)理事の田嶋幸三氏が会長を務め、副会長には元日本代表監督で現在は四国リーグ・FC今治のオーナーである岡田武史氏が就任した。

 岡田氏はオーナー職と二足のわらじを履くことになるため、当初は要請を断ったという。それでも本業に支障が出ないよう限定的な業務を求められたことで引き受けるに至った。非常勤で月に2度、JFAの常務理事会と理事会に出席する予定だ。

 

 彼がJFA副会長の重責を担う意味とは――。

 1998年のフランスW杯、2010年の南アフリカW杯と2度日本代表を率いて大舞台に立ち、南アフリカではベスト16に導いた。代表監督として日本サッカーを中から強くしてきた経験がある。中国スーパーリーグで初の日本人監督となり、地方リーグのクラブを経営するなど外からも日本サッカーを見てきた立場でもある。

 

 副会長に就任する前、今のJFAの印象とこれからやるべき自分の役割について聞いた。

「実際、(協会の)中に入ってみたら違うかもしれないけど、内向きになっている感じが何となくする。内ではなく外に向けて力を一つにしていかなきゃいけないんじゃないか、とは思うよ。(外から見てきた)ニュートラルな立場だからこそ、そういうのをやりやすいポジションなのかもしれない。

 今治もトップチームが勝たないといろいろと回らないし、お金も集まらない。同じことが協会にも言えると思う。トップを強くするのは大事。でもサッカーをやっている人の大半は、代表と関わらない人であり、その人たちが支えているということ。協会があって初めてサッカーがやれるわけじゃない。このスタンスがしっかりしていれば、グラスルーツにも自然と目が向くはず。今も目を向けているとは思うけど、そのような積み重ねが大事なんだというのは、(今治の経験から)凄く痛感させられている」

 

 FC今治ではファン、サポーター、そしてサッカーにかかわる人すべてを大切にしている。オーナー1年目の昨年、4月の四国リーグ開幕戦で800人を集めた観衆は、優勝を決めた9月の最終戦では2000人にまで膨れ上がるようになった。

 

 日本人の特性に沿ったプレーモデル「岡田メソッド」づくりを進め、地元の少年団、中学、高校を回って「このメソッドを使って、一緒にやっていきませんか」と協力を求めてきた。FC今治をトップとしたサッカーのピラミッドを人口約16万5千人の今治市全体でつくっていこう、盛り上げていこうという発想である。「今治市の人口が減少しているなかでFC今治が強くなったとしても、町が縮小してしまえば立つ場所がなくなる」と町と一緒に強く、大きくなっていくことを岡田氏は模索している。

 

 支える人がいてクラブがある、ひいてはサッカー界の発展がある。

 この「支える人」にもっと目を向けていかなければならないというのは、地方クラブの経営に携わったことでより見えてきたものなのだろう。

 

 彼は言う。

「(昨年の)ホーム開幕戦では一人ひとりのお客さんに御礼が言いたいと思った。監督のときは極端に言えば『強くて面白いサッカーをしていたら文句ないだろ』くらいのことを思っていたんだけどね。でも違う。フットボールというものはお客さんを含めてみんなでつくるものなんだ、と。それを59歳にして初めて気づいたっていう情けない男(笑)。そういうことを教えられてサッカーの仕事をやるのではちょっと違うかもしれない」

 

 魅力ある協会づくり。

「支える人」により目を向けていく改革が始まろうとしている。


◎バックナンバーはこちらから