1日、体操男子の個人総合が行われ、内村航平(コナミ)が92.690で他を圧倒し、金メダルを獲得した。個人総合で日本人が五輪を制するのは、1984年ロサンゼルス五輪の具志堅幸司以来、28年ぶり4人目。世界選手権で前人未到の個人総合3連覇を果たした第一人者が、五輪でも美しい演技で世界の頂点に立った。また田中和仁(徳洲会)は89.407で6位に入った。
 華麗な演技でロンドンっ子を魅了した。5種目を終えた時点で2位以下に大差をつけ、最後は床を残すのみ。大きな失敗がなければ金メダルは確実な情勢のなか、ラストの3回ひねりからの着地を無難に決めた。スタンドからの大きな拍手に、途中で手をついてしまったミスを詫びるように手を合わせ、笑顔を見せる。最高に輝くメダルを確信した表情だった。

 予選はまさかのミスが続出し、9位通過。上位8名の演技グループにも入れず、種目はあん馬からのスタートとなった。五輪のあん馬は、内村にとって、まさに鬼門。4年前の北京では個人総合で2度落下し、金メダルに届かなかった。そして記憶に新しいのが、今大会の団体だ。ラストの着地前にバランスを崩し、一時はメダルを逃すという結果に。その後、得点が修正され、銀メダルを得たものの、本人のなかでは不本意な出来だった。

「あん馬を乗り切れば、いい流れでいける」
 そう信じてポメルに手をかけた。ゆっくりと揃えた足を旋回させながら始めた演技。しかし、何が起こるか分からないのが五輪の舞台だ。途中、旋回が乱れ、ヒヤリとする場面もあった。それでも、もう失敗を繰り返すことはできない。その一心で持ちこたえ、団体では乱れた着地もうまくまとめた。

 その瞬間、思わずガッツポーズが飛び出す。鬼門を乗り越えた男に、もう怖いものは何もなかった。続くつり輪では、静と動がはっきりと分かれたメリハリのある内容。3種目目の跳馬ではスピードと高さを兼ね備えたパーフェクトな演技で着地もピタリと止める。16.266の高得点を叩きだして、早くも1位に立った。

 内村が順調に得点を積み重ねる一方、ジョン・オロズコ(米国)、ファビアン・ハンブッヘン(ドイツ)らはミスが目立ち、上位に顔を出せない。金メダルへ追い風が吹く中、4種目目の平行棒、5種目目の鉄棒はやや難易度を落とし、確実に得点を稼ぐ。特に鉄棒ではF難度のコールマンを回避しながら、15点以上のハイスコアをマークし、この時点で優勝をほぼ揺るぎないものになった。

「表彰台に上った時は夢かと思いました。やっとここまできたなという思いです」
 19歳で新星として輝いた北京から4年。五輪での金を最大の目標に、世界を代表する選手に成長を遂げた。事前の予想では金メダルの“鉄板”と目された。それだけに予選でのミスは「苦しくて、どうなるかと思った」という。勝って当然のプレッシャーが、内村にとって最大の敵だったと言えるだろう。

「これからも体操人生は続く。いい演技で応援してくれた皆さんに恩返ししていきたい」
 金メダリストとしてのインタビューを内村は、こう締めくくった。大きな夢は叶ったが、これが最終着地地点ではない。より美しい演技を追求すべく、次は5日に種目別床で2つ目の輝くメダルを目指す。

<田中和、6位に「悔しい」>

 最終種目のあん馬。旋回の際に田中和の足が接触し、落下した。メダル獲得の可能性もスルリと落ちた瞬間だった。

 左足を骨折した山室光史に代わって出場した。
「光史のためにも、自分のためにも、自分らしい演技をしよう」
 そう心に誓った田中和は第1種目のつり輪から好内容をみせた。伸身ムーンサルトで着地を決め、いいスタートを切る。続く跳馬、得意の平行棒でも15点台を連発。鉄棒ではコールマンを取り入れて、15.575点を獲得し、この時点では内村に僅差で続く2位だった。

 日本勢のワンツーフィニッシュも期待されたが、5種目目の床で痛いミスを犯す。演技途中で尻もちをつき、得点を落とした。他のメダル候補が脱落して混戦模様となるなか、3位以内に入れるかどうかは最後のあん馬次第だった。

 ところが、あん馬でも痛恨の落下。これでメダルの望みは絶たれた。
「床とあん馬でつまづいて悔しい」
 あとわずかのところでチャンスを逃し、インタビューでは唇を噛みしめた。言わずと知れた体操界の田中3きょうだいの長男だ。田中家に、自身の力で2つ目の五輪メダルを持ち帰ることはできなかった。