WBCでは四国アイランドリーグ出身の角中勝也(元高知、千葉ロッテ)が侍ジャパンのメンバーに選ばれ、四国のファンを大いに喜ばせている。その角中に続けとばかり、リーグ出身のNPB選手たちは各地でのキャンプを終え、オープン戦に突入した。これからが開幕1軍入りや支配下登録をかけた本当の戦いだ。NPB入りというひとつの夢を叶えた選手たちの中から、ルーキー2選手の今を追いかけた。
(写真:1軍のキャンプで約1カ月間を過ごしたヤクルト・星野)
 2軍からの捲土重来――星野雄大

「なんかしっくりこないんですよね……」
 沖縄・浦添、東京ヤクルトの1軍キャンプ地。キャンプの日程をほぼ消化した2月下旬、南国の太陽で真っ黒に日焼けした星野はもどかしさを口にしていた。

 昨年のドラフトで5位指名を受け、香川からヤクルトへ。小川淳司監督はルーキーの力量を見極めるべく、高卒を除く新人全員を1軍キャンプに呼んだ。ヤクルトは正捕手の相川亮二がWBC日本代表の候補に入っていたため、途中からチームを離れる。星野にとっては絶好のアピール機会だった。

 キャッチャーは扇の要とも言われる重要なポジションである。ピッチャーとのコミュニケーションに始まり、各選手の特徴把握、サインや配球、守りのフォーメーションの勉強……ホームベースを託されるために、取り組むべきことは山のようにあった。

「当たり前ですが、アイランドリーグと比べれば覚えることがいっぱいありますね」
 日々、全力で練習に取り組んではいたが、約1カ月間のキャンプ中、いつの間にか体重は落ち、知らず知らずのうちに疲労がたまっていた。アピールしたくても、思うようなプレーができない。それが冒頭のもどかしさにつながっていたのだ。

 迎えた2月25日の広島との練習試合。星野はスタメンでマスクを被り、初めて1試合をまるまる任された。オーランド・ロマン、村中恭兵、松岡健一、押本健彦ら1軍で実績のあるピッチャーをリードして1失点。初めてバッテリーを組んだ相手もいた中、まずまずの結果を残した。

 しかし、その1失点が星野にとっては痛恨のエラーによるものだった。最終回、二盗を試みた走者を刺そうとしたスローイングが悪送球となり、一気に三塁まで進めてしまったのだ。その後、犠牲フライで簡単に生還を許した。正確なスローイングが売りにもかかわらず、一番の長所でミスを犯してしまったのである。
「スローイングでいいボールと抜けるボールが出てしまっていますね。焦ってしっかり右足に体重が乗らないままに投げているから、バランスが崩れてリリースポイントが一定しないんだと思います」
 試合後、首を傾げながら引き揚げる星野の姿があった。

 課題が見えた最初のキャンプを終えるにあたり、小川監督から呼び出しを受けた。
「1軍での経験を忘れないように、下でしっかりやってきてほしい」
 キャンプ後の2軍行きの通告だった。

 本人も、その覚悟はできていた。降格を前向きにとらえた。
「もちろん1軍に割って入りたい気持ちはやまやまです。でも、今はやるべきことがたくさんある。それは1軍でベンチにいても、なかなか取り組めない。まずは下で試合に出ながら、ひとつひとつクリアしていくことが大事だと感じていましたから」
 
 侍ジャパンに選ばれた相川を間近で見て、「当たり前のことを当たり前にできる大切さ」を改めて痛感した。
「難しいショートバウンドでも難なく止めるし、スローイングもミスがない。それがベンチやピッチャーの信頼感につながるのだと思いましたね」
 派手さはいらない。できることを確実に遂行する。そのためには今、何をすべきか……。1軍で学んだことを糧に、星野はファームで自らと向き合おうとしている。

「ちゃんと信頼されて、1軍で勝負できるキャッチャーになって戻ってきたいですね」
 相川の後継と言われ、昨季はチームで最も多くマスクをかぶった中村悠平は2つ年下だ。ポジション獲りのチャンスは、そう多くはないと自覚している。背番号37は進化した姿で捲土重来を期す。

 3年後には盗塁王を――水口大地

 育成選手として埼玉西武に入団した水口は、ドラフトで指名を受けてから、あることに取り組んでいた。それはNPBで戦える体づくりだ。オフも所属していた香川に残ってトレーニングを続けていた。
(写真:50メートル5秒8の俊足。「盗塁の数にはこだわりたい」と語る水口)

 165センチ、60キロ。プロ選手としては最も小柄な部類に入る。体格で勝るライバルたちを上回るには、何よりフィジカルの強さが必要――。それがNPBで勝負するにあたっての水口なりの答えだった

 NPBの充実した環境は、その上で大いにプラスになった。所沢に来てからの新人合同自主トレ、高知・春野でのキャンプを経て、水口は一回り体を大きくすることに成功した。
「(NPBは)トレーニングひとつひとつが、しっかり負荷がかかってきついですし、食事もたくさん摂れる。香川では朝はコンビニ、昼はうどんでしたからね(笑)」
 ハードな練習が続いたキャンプ中に、約5キロの増量。トレーナーからは「ただ太ったわけではなく、脂肪が筋肉になっている」と評価を受けた。

 体ができれば、次は技術の向上だ。キャンプ中、内野守備も打撃もコーチから徹底して指導を受けた。
「バッティングではホームランバッターじゃないのに打球を上げようとする悪いクセがある。足を生かすには、まずゴロを転がして塁に出ること。低い打球を心がけて素振りやティー打撃から取り組みました。
 守備では特に打球への入り方を教わりましたね。ただ捕って投げて終わりではない。送球を受ける相手が捕りやすいようにいかに投げるかを意識するように言われました」

 西武のユニホームを着て初実戦となった2月11日の韓国チームとの練習試合では、3安打の固め打ち。2盗塁と俊足を飛ばして結果を出した。「指導していただいたバッティングのかたちではない。内容も求めていかないと成長できない」と本人は反省を口にしたが、名刺代わりのいいアピールができた。関東に戻ってきてからの春季教育リーグでもコンスタントに出場を続けている。

 NPBでは生き残るには、体と技のみならず、心の充実も大事だと感じている。
「アイランドリーグ以上に試合数が多いですから、打てなかったり、エラーをしたりした時に、いちいち下を向いていたら結果は残せないと思います。何があってもプラスにとらえ、いい意味で楽しむことができれば一番でしょうね。もちろん、そのためには、どんな時も落ち着いてプレーできるだけの自信を練習でつけることが大切です」

 香川時代のチームメイトだったヤクルト・星野とは、よく電話で話し、刺激を受けている。2日の教育リーグ、ヤクルト−西武戦では、2軍ながらキャッチャーとバッターとして対戦を果たした。
「星野さん、マスク越しにいろいろ話しかけてうるさかったんですよ。ささやき戦術にやられました(笑)」
 できれば出塁して盗塁で仕返しをしたかったが、結果はノーヒット。自慢の足で星野の肩と勝負するのは次回以降に持ち越しになった。

 1日も早い支配下登録を目指す上では「すべての面でのレベルアップ」が必要と考えている。最初のキャンプを終え、「教わったことをしっかりできれば成長できる」と手ごたえはつかめた。これからはコーチのアドバイスを踏まえて、自身がいかに成長できるかだ。
「3年後には1軍で盗塁王を獲れる選手になりたい」
 小さな体で大きな目標を成し遂げるべく、まずはファームのグラウンドを縦横無尽に駆け巡る。

(石田洋之)