平幕・宇良の初金星は同じ目方の日馬富士からだった。名古屋場所9日目、いつもの低い姿勢で飛び込んだ宇良は、両手で日馬富士の右腕を手繰り、左に回りこみながら鮮やかにとったりを決めた。

 

 幕内42人の中で体重150キロ以下の力士は数えるほどしかいない。宇良は137キロで日馬富士と並んで下から4番目だ。身長1メートル74は貴景勝、大翔丸とともに下から3番目。“小よく大を制す”を地でいく相撲で土俵を沸かせている。

 

 小兵力士の活躍は大相撲を盛り上げる。若浪、旭國、鷲羽山、舞の海、智乃花…。昔から小兵が好きだった。そこには多少の判官びいきもあったかもしれない。

 

 格闘技において体重は勝敗を左右する重要な要素である。ボクシングや柔道、レスリングはウエート制を採用している。相撲でもアマチュアには体重別がある。無差別級で行なわれる大相撲は、それゆえにスリリングな魅力を持ち合わせはするのだが、小兵力士の不利はいかんともしがたい。

 

 体重のハンディキャップを少しでも軽減するには土俵を広げるしかないのではないか。いつだったか第66代横綱・若乃花の花田虎上にそう水を向けたことがある。土俵のサイズが大きくなれば小兵力士の機動力が生きると考えたからだ。ちなみに彼が横綱時代の体重は130キロ前後。この頃の幕内力士の平均体重はゆうに155キロを超えていた。

 

 土俵の直径は昭和6年以降は15尺(約4.55メートル)で統一されている。だが戦後すぐの昭和20年秋場所だけは16尺(約4.85メートル)で行われた。1尺長くすれば土俵の面積は約1.14倍大きくなる。回り込んだり、逃げたりするスペースが広くなれば土俵際での逆転が起きやすい。体格に恵まれない力士には歓迎されるのではないか。そう考えたのだが…。

 

「いや逆ですよ」。元横綱の反応はにべもなかった。「土俵が大きくなったら、どこにも(巨漢力士を)出せなくなります。今のサイズなら、こちらから圧力をかけ、バランスを崩しておいて投げを打つこともできますが…。土俵が広くなったら、(小兵力士は)手の打ちようがありませんね」

 

 15尺という直径は小兵力士にとって「間尺に合わない」サイズかと思っていたが、どうもそうではないらしい。やはり今の15尺が適正なのか。宇良や石浦にも聞いてみたい。

 

<この原稿は2017年7月19日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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