第83回 ボランティアスタッフが活躍して、共生社会へ
前回の小欄で取り上げたスーパーラグビーや、東京マラソンなどの大きなスポーツイベントの運営に、今やボランティアスタッフは欠かせない存在となっています。それは私たちSTANDが行う様々なイベントでも同様です。
事前の準備や当日の力になるのはもちろんのこと、現場にいるからこそ私たちの目が届かない様々なことに気付いて、情報を持ち込んでくれたり、アイディアや改善点を出してくれます。その積み重ねでイベントは回を重ねるごとに良くなっていって、より幅広いサービスが可能になっています。
2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、東京都と大会組織委員会が発行した「東京2020大会に向けたボランティア戦略」によれば、大会ボランティアと都市ボランティアを合わせて9万人以上を組織する計画が発表されています。ボランティアへの興味、気運も高まっており、応募者数は募集人員の数倍になると見込まれています。
STANDでは15年から「ボランティアアカデミー」という事業を行っています。13年、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まった後、STANDのオフィスに多くの電話がかかってきました。「パラリンピックのボランティアをしたいがどうすればいいのか」「募集までに身に付けるべきことは」など、熱心な問い合わせばかりでした。
想像以上に多くの人がパラスポーツを応援したいと思っているのだと感じ、同時に何とかその熱意に応えたい。そういう思いでボランティアアカデミーはスタートしました(バックナンバー参照)。
ボランティアと大会主催者の橋渡し
開講後、受講した方からこんなメールをいただきました。「視覚障がいの方をエスコートする実技を受けた翌日、街で白杖を持った方を見かけて、生まれて初めて、障がいのある方に声をかけ目的地へ案内しました」と。ボランティアアカデミーが共生社会への一歩となっていたことを実感しました。
開講から約2年半が経過しました。これまで開催した講座は企業向けの社員セミナー、社員と家族セミナー、お客さまセミナー。大学を対象にした学生向けアカデミー、また自治体を対象に区民、市民講座、高校では希望者対象の講座など約20講座にのぼります。
そんな中、予想しなかったことが起こりました。受講者の方から「実際の大会で活動してみたい」「ボランティア参加したいので紹介してください」という声。
また大会やパラスポーツ関連イベントの主催者からは「障がいのある方をエスコートできるボランティアスタッフを探しています。ボランティアアカデミーの卒業生を、大会ボランティアとして派遣していただけませんか」との問い合わせが多数来るようになったのです。
これまで私たちは受講者名簿を作ることもなかったので、そんな時は個人のつながりで細々と対応していたのが実情でした……。しかし、ボランティアとして参加したい人と、ボランティアを探している大会やイベント関係者。この両者の橋渡し役を私たちができないか、と考えるようになったのです。
受講者の方、そして大会やイベント関係者の方、両方の思いに応えるためにきちんとした体制を構築しよう。やることは以下の3つです。
1. ボランティア講座を実施して、様々な会場や機会に障がいのある人が特別なことでなく参加するためのエスコートができる人材を養成する。
2. 受講された方の登録と組織化。
3. 人材の紹介。各種スポーツ大会やイベントなど対象は幅広く設定する。
この取り組みはスポーツだけに限りません。コンサートや美術館など様々な行事や場所で、障がいのある人も含めたすべての人が快適に過ごせる環境をつくりたい。それを私たち「人の手」でつくれたら、と考えています。
この仕組みが広がっていくと、先に述べたように共生社会へと自然につながっていくのではないでしょうか。……と、夢はさらに広がるのです。
<伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>