23日、「Red Bull Street Style Japan Final(RBSS)」が池袋・サンシャインシティ噴水広場で開催され、長江直幸(通称NAO)が優勝を収めた。大会では事前にビデオ選考(応募者120人)を突破した39人が頂点を争った。また、今大会は9月に東京・増上寺で行われるWorld Finalの日本代表選考会も兼ねており、優勝したNAOがその切符を手にした。
 最後まで自身のスタイルを貫いた。NAOは予選から「これが僕のスタイル」と語るストール(ボールを身体の一部に乗せてバランスをとる技)を軸にしたルーティーンを構成。ミスの少ないクオリティの高さも示した。

 予選は1人持ち時間1分間でのパフォーマンス審査が行われた。エアムーブ(難易度の高い技、コンボ数の長さを追求するスタイル)、宙返りや逆立ちを取り入れたアクロバット、座った状態で技を繰り出すシッティング……。各選手が各々のベストトリックを披露した。NAOはアッパー(頭や肩など身体の上半身を使って行う技)から、スタンディングでのストール、シッティングへとつなぎ、確実性の高いパフォーマンスを演じた。「(予選通過できるか)危ないかもしれない」と本人は不安を口にしていたが、勝ち残った16人の中にはしっかりとNAOの名前があった。

 決勝トーナメントは1対1のバトル形式で、ひとつのボールを使い、3分間の中でお互い30秒間ずつトリックを披露する。審査基準は「スタイル」「コントロール」「バラエティー」の3項目。項目ごとに1名、計3名の審査員が勝敗を判定する。

 NAOは1回戦、準々決勝ともにエアムーブを得意とする選手と対戦。それに対し、予選同様にバランスのとれたルーティーンで争った。ミスも最小限に抑えて1回戦を判定2−1、準々決勝は3−0で勝利。ベスト4にコマを進めた。

 準決勝の相手は、とっちー(後藤利徳)。NAOが「何年も一緒に練習してきている」と語る戦友だ。今大会に臨むにあたっても、ともにバトル形式の練習を行い、互いを高め合ってきた。

 先攻のNAOはこれまで通り、アッパーから入るルーティーン。シッティングでは「サマーリングストール」という技で会場を沸かせた。これは「バイシクル」(仰向けの状態でボールを足の裏で扱う技)から、後転しながらストールをキープするもの。実は発案者はとっちーで、NAOが初めて成功させたのだという。エアムーブ系の技が少ないNAOのトリックにおいて、インパクトを与える技となっている。

 対するとっちーは全身を使ったダイナミックなパフォーマンスを披露。結果は2−1でNAOに軍配が上がったが、互いにバトル中に笑顔がこぼれ、終了直後には「楽しかった」と言葉を交わした。そんな熱戦に、観客からも大きな拍手。NAOがいい流れで2年連続の決勝進出を決めた。

 運命の決勝ではNAOらしさが存分に発揮された。相手のLYU(志田竜一)が逆立ちクラッチ(ボールを足で挟む技)などアクロバティックな大技を繰り出すのに対し、柔らかいボールタッチでシッティングからの質の高い技を次々と決めた。

 3分間が終了し、3人の審査員が優勝者を話し合う中、NAOは何度も大きく息を吐き出していた。判定結果が出ると、ステージ中央で審査員を務めたMARCO(日本フリースタイル・フットボール協会会長)がNAOとLYUの手を持つ。手を上げられたほうがチャンピオンだ。約2000人が見守る会場が異様な緊張感に包まれる中、NAOの左手が高々と上げられた。その瞬間、見守っていたフリースタイルの仲間が押し寄せてもみくちゃに。ステージ上では胴上げが行われ、チャンピオンは3度、宙に舞った。

「(手を上げられるまで)ドキドキしていた。本当に信じられない」
 NAOは歓喜の瞬間をこう振り返った。前回大会は悔しい2位。リベンジを果たすため、この1年で入念にルーティーンを練り上げ、「ミスのないところが僕の強み」と徹底して技の精度向上に努めた。その努力が結実し、決勝ではノーミス。MARCOも「NAOの技術とクオリティの高さはすごかった」と賛辞を惜しまなかった。

 普段は大阪で理学療法士として働く。仕事との両立は簡単ではなかったが、何とか時間をつくり「平日に2時間、休日なら3時間」の練習を続けてきた。扁桃腺を腫らすなど、コンディションを崩した時期もあったという。それだけに「(前回大会からの)1年間はすごく苦しかったので……本当にうれしい」と勝利の味を噛みしめた。

 ただ、余韻に長く浸っている時間はない。出場権を獲得した世界大会までは約3カ月しかないのだ。それまでに対世界の戦い方を作り上げなければならない。
 世界には長い手足を生かした大技が得意な選手が多い。NAOは「技の精度だったり、他の人がやらないような技・スタイルを追求する」ことを対策に挙げた。MARCOも「NAOは(ストールの技を中心にした)自分のスタイルを完全に持っている。世界でもああいうふうにスタイルを貫く人間はあまりいない。それを貫いてさらに派手なことをやれれば、おもしろいことになる」と期待を寄せた。

「日本のレベルはすごく高い。その代表の名に恥じないように、1日、1日練習して、世界一を目指したい」

 最後にこう力強く語ったNAO。World Finalでも、自身のスタイルを貫き通す。

(鈴木友多)