8日、日本体操協会は都内で記者会見行い、ベルギーのアントワープでの世界体操競技選手権に出場した日本代表のメダリストたちが出席し、計7個(個人総合2個、種目別ゆか2個、あん馬1個、平行棒1個、鉄棒1個)のメダルラッシュの喜びを語った。個人総合4連覇を成し遂げた内村航平(KONAMI)は「こんなに日本がメダルを獲るとは思わなかった」と予想を上回る好結果だったことを明かし、ゆかで日本人最年少での金メダルを獲得した白井健三(神奈川・岸根高)は「楽しい大会だった」と振り返った。
(写真:内村<左>は「まだはじまったばかり。毎年代表になってほしい」と白井にエールを送った)
 6日に閉幕した世界体操。やはり主役はこの男だった。世界王者の内村航平はオールラウンダーとしての能力の高さを改めて世界に見せつけた。昨夏のロンドン五輪でも個人総合で金メダルを獲り、今大会では周囲から自らをマークするような“視線”を感じたという。その中でも王者は変わらぬスタンスで臨んだ。

「結果を意識してやらなかった。試合でしっかり自分の演技ができた」。個人総合では全6種目15点台の安定したスコアで優勝、前人未踏の連覇回数を、また1つ伸ばした。種目別は、前回金だったゆかでは、白井に王者を譲ったものの銅メダル。鉄棒は2大会連続銅メダリストになった。平行棒で日本人32年ぶりの優勝を果たした。計4個のメダルを獲得し、世界体操の通算獲得メダル数は13個。日本人歴代2位に躍り出た。

 そんな内村がかねがね口にしているのが、団体での金メダル獲得だ。彼自身がまだ手にしていないタイトルで、日本にとってはアテネ五輪以降、頂点に立てていない。いくら世界王者といえど、1人で太刀打ちできるものではない。その他の選手の活躍がカギを握る。

 内村の後継者として期待される加藤凌平(順天堂大学)は、初出場の世界体操で個人総合銀メダルを獲得した。目標としていた内村とのワンツーフィニッシュを達成し、加藤は「うれしい気持ちしかない」と喜んだ。世界王者との差は「(今大会で)少しは近づけたけど、まだまだ及ばない」と本人が語るように決して小さくはない。苦手のあん馬とつり輪の得点を上げていくことが課題になる。

 20歳の加藤は、ロンドン五輪以降、ますます安定感を増しているように映る。今や体操NIPPONで2番手争いの先頭を走っている。だからと言って今後の代表入りが確約されているわけではない。今大会の選考会では、順大の同級生・野々村笙吾と熾烈な代表争いを繰り広げた。「笙吾が国内では一番のライバルになる。国内選考を勝ち抜かなきゃ世界では戦えない」。身近にいるライバルとの切磋琢磨で、頂点すら脅かす存在を目指す。

 この大会では2人のスペシャリストが輝いた。種目別あん馬では亀山耕平(徳洲会)が、鹿島丈博以来の2人目の金メダルを獲得した。内村とは同い年の亀山は世界体操初出場。「絶対メダルを獲る」という気持ちで強い大会で臨んだ。実は今年、代表に入れなければ体操を諦めることも考えていたという。「結果として腹をくくれたことが良かった」。今年6月、ついに初代表を勝ち取ると、世界体操のあん馬を制した。「僕のあん馬が日本体操界に貢献できればいい。一番勝負できる武器、これからも磨き続けていきたい」とスペシャリストとしての自負を覗かせ、代表定着を誓った。

 もうひとりは史上最年少の日本代表となった白井。17歳は初の大舞台にも、緊張を感じさせない演技で、ゆかと跳馬で新技を成功させた。ゆかではDスコア(難度)で7.400点をマークし、合計16.000点を叩き出した。前回の王者・内村らを抑えての優勝にも「自分の演技がしっかり出せれば結果はついてくるなと思っていたので、予想通りの結果です」と強気なコメントを残した。

 世界体操という大舞台を経験した白井の視線は、すでに五輪に向けられている。「オリンピックに出るだけで満足するのではなくて、結果を求められるようにしていきたいと思います」。体操界に現れた新星は、高校2年生とは思えないほど堂々としている。新技「シライ」や最年少金に対する周囲のフィーバーぶりにも「意識はしていない」と、いたって冷静な様子だ。

 7年後の開催が決まった東京五輪は23歳で迎える。「ちょうどいい年齢かどうかは、自分の努力次第。そこでチームを引っ張れる存在になりたい」と白井。だが、内村が「ゆかで輝きを放っているのに、他の種目をやっているとどこにいるのかわからない」と冗談交じりに白井を評したように今回出場したゆかと跳馬以外は、まだまだトップレベルには及ばない。本人も「オールラウンダーにならなきゃ東京五輪のエースにはなれない。そこを自分の課題にしています」と語った。

 日本代表の水鳥寿思監督は今大会をこう総括した。「選手が実力を出し切った結果。日本の美しい体操が評価されたと感じています。リオデジャネイロ五輪に向けていいスタートが切れた」。「団体金メダルへ近付いた」と内村が口にしたように、体操NIPPONは大きな手応えをベルギーで掴んできたようだ。来年の世界体操は中国・南寧で開催される。まずは、団体の最大のライバルである開催国・中国を叩いて、3年後のリオへの弾みをつけたい。
(写真:体操NIPPONのメダリストたち<左から亀山、加藤、内村、白井>)

(文・写真/杉浦泰介)