英断か、はたまた暴挙か。いまなお評価の分かれているハリルホジッチの電撃解任だが、この内容と結果は、論争に決着をつけるどころか、拍車をかけることになりそうだ。

 

 W杯出場を逃した国にホームで0-2の敗戦を喫してしまったのだから、もちろん、わたしも気分はよくない。ただ、8年前の壮行試合のときほどではないな、との思いもある。韓国に翻弄され、暗澹たる気持ちで整列した選手を見守ったあのときに比べれば。

 

 というのも、少なくとも今回のガーナ戦は、チャンスがあったから。8年前の韓国戦や、ハリル解任の決定打となった欧州遠征の2試合とは違い、それなりに主導権は握っていたからだ。決定力が高くない国民性であるにもかかわらず、チャンスの数という分母を、大きくすることを放棄していたことを考えれば、まだガマンもできる。

 

 ただ、これが日本の武器だ、ストロング・ポイントだと実感できるようなところは、ほとんどなかった。ほかならぬ選手たち自身がそこを把握、もしくは自覚できていない、というのが正直なところではないだろうか。

 

 長友の飛び出しは光っていた。おそらく、本大会でも期待していい。だが、彼が演出するチャンスを得点に変えるためには、サイドからのクロスを好物にするストライカーがいる。というより、そういうタイプがいないのであれば、長友の突破は宝の持ち腐れになってしまう。この試合を見る限り、武藤がその特性を一番色濃く持っているようだが……。

 

 以前に本田が言っていたことだが、強いチーム、成熟したチームは困ったとき、苦しいときに「帰る場所」がある。こうやっていればなんとかなると思える武器やスタイルがある。善し悪しは別にして、ハリルはそこに背を向け、相手によってやり方を変える監督だったわけだが、だからこそ、西野監督はどれほど時間がなかろうとも、選手たちに自分たちの「帰る場所」を指し示す必要がある。

 

 圧倒的ポゼッション。ゲーゲンプレス。苦しいときのエース頼み。なんだっていい、チームの共通認識、自分たちはこれで勝負していくんだという方向性なくして、結果を出すことはありえない。絶望的な気分にさせられた8年前のチームは、最終的に本田の得点力に賭けることで望外の好成績を収めることができた。

 

 果たして、西野監督は何を武器とするのか。誰を軸とし、どんな展開を予想しているのか。

 

 恥ずかしながら、わたしには見えなかった。

 

 柴崎には風格が出てきた。近い将来、攻撃の起点は彼になる――。そう予感させるほどに。だが、それを来月中旬に、というのであれば、人為的な圧力が必要になってくる。

 

 たとえば、監督からの指名。

 

 それは、彼を重圧でつぶすことになるかもしれない。けれども、そんなバクチをしないとどうにもならないと思ってしまうぐらい、いまの代表には武器がない。

 

 スペシャリスト、本当に不要なのだろうか。

 

<この原稿は18年5月31日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


◎バックナンバーはこちらから