阪神の高山外野手が母校明治大学のラグビー部が日本一になったことに刺激を受けている、という。競技は違えど、母校の優勝はOBにとって嬉しいものであるらしい。

 

 ならば、母校の、それも自分が所属していたクラブが日本一になったとなれば、卒業生たちの喜びもひとしおに違いない。刺激なんてものではない。猛烈な力というか、後押しを受けた気分になるはず……というか、なってくれなければ困る。

 

 柴崎岳のことである。

 

 ここまでの2試合、彼の出来は非常によくない。昨年のW杯ロシア大会では、彼からのスルーパスが日本にとって最大の武器になっていたが、森保体制になってからというもの、それが完全に影をひそめてしまっている。

 

 もっとも、彼以外に急所をつける選手がいなかったW杯時と違い、中島や南野、堂安といった個人で状況を打破できる選手が加わったことで、柴崎の不調はさほど問題視されずに来た。

 

 だが、今回のアジアカップでは、直前に中島が離脱してしまったため、W杯時ほどではないものの、柴崎にかかる比重が大きくなった。結果、その不調ぶりが目につくようになってしまった。

 

 わたしは、柴崎という選手は「ラストパスを出せるトニー・クロースのような存在」だと思っている。つまり、圧倒的なパス成功率を誇りつつ、才能のある者にしか許されないスルーパスを放てる存在である。笑う人がいるかもしれないが、わたしにとっての柴崎は、クロースの「上位互換」的な存在なのだ。

 

 それだけに、ここまでの彼の出来はまったくもって物足りない。パスの成功率は大幅に落ちてしまっているし、危険なエリアでのボールロストも目立つ。何より、ここまで日本が奪った4ゴールのうち、彼のアシストによるものがいくつあるか――。

 

 所属クラブで試合に出ていないことを原因とみる人もいるが、ならば、W杯の時はどうだったか。わたしの知る限り、状況に大きな違いはない。ここまでの不出来が、試合勘の鈍りとかそういったものではなく、精神的なものによるのだとしたら、ここは母校の選手権優勝を大きな力にしてもらいたい。中島のいないいまの代表にとって、柴崎がロシアでの輝きを取り戻すこと、いや、あの時以上の輝きを放つことが、優勝への絶対条件である。

 

 正直、ここまでの2試合の内容は褒められたものではないし、海外のメディアの中には「優勝候補とは思えない戦いぶり」と報じたところもあると聞く。ただ、現時点での日本が、まだアクセルを踏み切っていないのも事実である。

 

 おそらく森保監督は、もちろんこの大会での優勝を狙ってはいるものの、それと同じくらい、実験の場としても捉えているのだろう。乾を投入しなかったトルクメニスタン戦や、北川を先発させ、かなり引っ張ったオマーン戦の選手起用などからも、そのことはうかがえる。

 

 おそらく、ムチを入れるのは決勝トーナメントに入ってから。そこでの森保采配にも注目したい。

 

<この原稿は19年1月17日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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