ボクシングの世界タイトルマッチが31日、東京と大阪で5試合行われ、東京・大田区総合体育館でのWBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチは王者の内山高志(ワタナベ)が同級8位の挑戦者イスラエル・ペレス(アルゼンチン)に9R終了TKOで勝利し、9度目の防衛を果たした。WBA世界スーパーフライ級タイトルマッチは王者の河野公平(ワタナベ)が同級5位の挑戦者ノルベルト・ヒメネス(ドミニカ共和国)と引き分け、初防衛に成功した。WBA世界ライトフライ級タイトルマッチは同級8位の挑戦者・田口良一(ワタナベ)が王者のアルベルト・ロセル(ペルー)を3−0の判定で破り、世界初挑戦で王座を獲得した。
(写真:強烈なボディ攻撃で相手を消耗させた内山)
 また大阪・ボディメーカーコロシアムで開催されたWBA・WBO世界スーパーバンタム級タイトルマッチはWBA同級10位、WBO同級6位の挑戦者・天笠尚(山上)が統一王者のギジェルモ・リゴンドー(キューバ)から2度ダウンを奪う健闘をみせるも、11R終了TKOで敗れた。IBF・WBO世界ミニマム級王座決定戦ではIBF3位、WBO1位の高山勝成(仲里)がIBF6位、WBO2位の大平剛(花形)に7R2分24秒TKOで勝って、日本人初の4団体制覇を達成した。

<内山、「基本通り」で9連続防衛>

 1年ぶりの試合でも“KOダイナマイト”の破壊力は不変だった。
 9R、自慢の右ストレートが何度も突き刺さる。「次のラウンドで倒せるかな」。勝利を確信した王者の強打に、戦意を喪失した挑戦者はインターバルを経てもコーナーから立ち上がってこなかった。棄権によるTKO勝ちだった。

 昨年の大晦日は金子大樹(横浜光)にダウンを奪われる場面もありながらの判定勝ち。激闘で痛めた拳を万全の状態にすべく、試合間隔を空けた。「久々の試合で、パンチへの反応がどうか心配だった」と本人も試合勘は不安材料だった。

 それだけに心がけたのは「ジャブから基本通りのボクシング」だ。立ち上がりから左ジャブで機先を制し、ボディで相手のスタミナを削った。「大きいパンチを食らうとペースが狂うので慎重に行った」と深追いはせず、右を振り回してくるペレスの反撃をしっかりとガードした。

 3Rには相打ち気味ながら左ボディを入れ、挑戦者をよろめかせる。「ガードが固かった」とダウンこそ奪えなかったものの、中盤以降は徐々にワンツーが入り、相手を圧倒した。

「出来としては全然。腹が効いているのはわかっていた。倒しきりかった」
 終わってみれば完勝の内容で反省の弁が出るのも次元が高い証だ。新年に突入すれば、王座を獲得してから在位期間が5年を超える。不安視された拳の状態も良好そうで、「コンスタントに試合がしたい」と2015年の抱負を語った。

 ファンが期待するカードはWBC同級王者・三浦隆司(帝拳)との統一戦だろう。「三浦選手は前に戦った時より強くなっている。どっちが勝つのかわからない楽しみな試合になると思う」と内山自身は実現に意欲をみせる。円熟の度合いを増す35歳の王者が今年も1年をきれいに締めくくり、5月にも決戦に臨む。

<新王者・田口、井上に刺激>

“つよかわいい”チャンピオンの誕生だ。
 ベルトを巻くと「すごい重い」とボクサーらしからぬ甘いマスクではにかんだ。
(写真:8R、左ボディで最初のダウンを奪う)

 見た目とは異なり、ボクシングは力強い。「挑戦者らしく先手で行く」と戦前に語っていた通り、序盤からどんどん前に出てプレッシャーをかけた。4Rには右ストレートがヒット。5Rにはロープ際に詰めてボディを効かせ、手応えをつかんだ。

 6Rにも右フックで相手をぐらつかせ、迎えた8R、接近戦で左ボディをストマックに突き刺す。王者はたまらずダウン。9Rにも再び左ボディでダウンを奪い、ベルトをグッと引き寄せた。

「あそこまで来たらKOじゃないとダメ」
 最終的には5〜8ポイント差をつけての王座奪取も、本人は判定勝ちに不満を漏らした。その思いが一層強くなったのは、前日に見たボクシング中継だ。

「井上君が衝撃的な勝ち方をしたんで、パンチ力がないと思った」
 前日、オマール・ナルバエスを2RKOして日本人最速の2階級制覇を達成した井上尚弥とは、日本王者として昨年8月に対戦した。敗れて日本王座から陥落したものの、判定まで持ち込んだ。田口は若き怪物がこれまで唯一、KOできなかったボクサーになる。

 注目の一戦を経験したことで、田口は「(世界戦の)大舞台でもあがらなかった」と明かす。井上との再戦の可能性は階級が異なるため、「リベンジしたい気持ちはあるが、やることはない」と否定したが、同じ世界王者という立場には立った。

「これから強い人と当たっていく。やることをやって勝ち続ける」
 今後も井上の存在を意識しつつ、世界一“つよかわいい”ボクサーであり続ける。

<河野、ドロー防衛に「やりにくかった」>

 判定は三者三様。ヒメネスはローブローの反則にクリンチを連発し、スマートな戦い方とは言えなかった。ただ、河野も決め手を欠き、白黒をつけられなかった。「やりにくかった」と試合後、本人も苦戦を認めた。
(写真:「自分のボクシングをもうちょっとしたかった」と河野は振り返った)

 立ち上がりからリーチで上回るヒメネスに対し、なかなか懐に飛び込めなかった。2Rには被弾し、右目の上をカット。ペースをつかめない。

 何より、戦前から口撃を仕掛け、試合中も不敵な笑みを浮かべて挑発するヒメネスに平常心を保てなかった。
「倒したい気持ちがあって、力みもあった」
 本人が反省を口にすれば、指導する高橋智明トレーナーが「昔の河野なら大差の判定負け」と評する出来だった。

 それでもベルトを守れたのは、粘り強く距離を詰め、ボディからの攻撃を徹底したからだ。挑戦者がボディを嫌がり、ガードを下げたところに右クロスをかぶせ、ヒメネスをひるませた。

 3月に王座に返り咲いた後、WBAから日本でのボクサーライセンスを失効した亀田興毅との対戦を指名され、試合を組めない状態が続いた。最初に同タイトルを獲得した際には初防衛に失敗しており、ようやく決まった今回の一戦には進退をかけていた。

「勝つと負けるとでは天国と地獄の差」と本人もひとまずはホッとした様子だ。
「まだボクシングができる」
 大きな山を越えた34歳は、「誰でもやります。メキシコでも行きます」と次なる山を見据えた。

<天笠、あわや大金星の健闘>

 世界を驚かす大番狂わせ寸前だった。
 7R、プレッシャーをかけてリゴンドーが後退したところを右フックが顔面をとらえる。王者は仰向けにバッタリと倒れた。

 すぐに立ち上がったリゴンドーをさらに追い詰め、ラウンド終了間際に再び右フックが当たる。無敗のチャンピオンをひざまずかせた。

 相手はシドニー、アテネ五輪のバンタム級金メダリスト。プロデビュー2年目の2010年にWBAの王座に就くと、13年にはWBO王者(当時)のノニト・ドニアを破り、統一王者として君臨している。

 天笠本人も「99%勝てない」と戦前から話していた最強王者。序盤から素早い右ジャブと、力強い左ストレートで圧倒された。だが、これは挑戦者も織り込み済み。だが、1%の可能性にかけ、玉砕覚悟で拳をふるった。

 その可能性が一気に高まったのが7Rだった。続く8Rも、天笠は力を振り絞って試合を決めにかかる。だが、百戦錬磨の王者は足を使って、うまく相手の攻勢をしのぎ、決定打を与えない。

 そして、9Rからはリゴンドーの逆襲。序盤からダメージが蓄積していた天笠は動きが落ち、パンチをまともに受けるシーンが目立つ。10Rには左ストレートを顔面にもらい、ダウンを喫した。

 既に目は腫れ、左頬は大きく膨れていた。それでも果敢に打ち合おうとした。11Rも一方的な展開に。インターバルに陣営が棄権を申し出て無念のTKO負けとなった。

 試合続行を希望していた天笠は涙を流した。しかし、この大健闘でボクサーとしての価値は急上昇したはずだ。世界再挑戦の機会を待ちたい。

<高山、連打で4つ目のベルト>

 7R、右フックでロープ際に下がった大平に連打を浴びせた。左ボディ、右ストレートが次々と当たり、相手は何もできない。レフェリーが試合を止め、念願だったWBOのベルトを手にした。

 苦労の末、悲願を達成した高山の生き様を象徴するような内容だった。序盤は積極的に攻めた大平に手こずったが、ボディで相手の足を止めて挽回。中盤以降、形勢を逆転させた。 

 高山は05年にWBC、06年にWBA(暫定王座)のタイトルを獲得。当時は日本で公認されていなかったIBFとWBOの王座に挑むべく、09年に日本ボクシングコミッション(JBC)に引退届を提出して海外で活動した。

 IBFのベルトは2度挑戦に失敗したものの、13年3月に3度目の正直で王者に就く。この直後、JBCがIBF、WBOに加盟し、時代が高山に追いついた。この8月にはWBO王者のフランシスコ・ロドリゲス・ジュニア(メキシコ)との王座統一戦のリングへ。敗れて4団体制覇を逃したが、再チャレンジで日本人初の快挙を達成した。

 IBFの王座決定戦も兼ねていたため、一夜で2つのベルトを腰に巻いた。この4月からは高校にも通い、文武両道で充実した日々を過ごす。31歳にして青春真っ只中だ。

(石田洋之)