日本人選手の移籍でこれほどのインパクトのものがかつてあっただろうか。

 昨年12月、日本代表・南野拓実が欧州王者リバプールに移籍したことだ。「興味」「関心」はあっても、実際にはオファーに至らないケースもよくある話。だが香川真司を育てたユルゲン・クロップ監督の熱意は本物だった。現地報道によれば移籍金は725万ポンド(約10億4000万円)、4年半契約とされている。

 

 2012年にドルトムントからマンチェスター・ユナイテッドに移籍した香川の移籍金は1700万ユーロ(当時のレートで17億円)+出来高と言われており、それと比べると「格安感」は否めない。しかしながら移籍金で勝負するのではなく、入ってからの活躍が勝負。期待感を口にするクロップの発言からも、練習でアピールを続けていけばチャンスは巡ってくるはずだ。

 

 今回の移籍劇で興味深いのは、欧州チャンピオンズリーグ(CL)の対戦相手として敵将に大きなインパクトを残して移籍をつかみ取ったこと。

 

 昨年10月2日(現地時間)、アンフィールドでの対戦。オーストリアのレッドブル・ザルツブルクで6シーズン目を迎えた南野は、欧州王者相手に1得点1アシストと結果を残した。後半11分、左サイドからのクロスに右足ボレーで合わせた一撃は見事の一言に尽きる。その4分後には右サイドで仕掛けて欧州最強のセンターバックと言われるフィルジル・ファンダイクの股を抜くパスでアシストをマークした。この試合のパフォーマンスが、リバプールを南野獲得に走らせることになった。

 

 南野が示したビッグクラブへの移籍のカタチ。欧州主要リーグでプレーしていなくても、欧州CLの舞台で直接、自分の価値を伝えればいい。単純明快な答えを示してくれたことは非常に価値がある。

 

 日本人選手の欧州間移籍、それもビッグクラブでくくるなら、大きく分けて「香川パターン」と「長友パターン」がある。

 

 ドルトムントからマンUに渡った香川はドイツ、イングランドという欧州主要リーグ間の移籍だった。ドイツでその名を高めてプレミアへ。極めてポピュラーなケースだと言える。一方、長友佑都の場合は同一リーグでのし上がったパターン。南アフリカワールドカップ後の2010年夏、セリエAのチェゼーナに移籍し、リーグ内及びアジアカップでの活躍が評価されて半年後にインテルから声が掛かった。同一リーグでステップアップするのもポピュラーではある。

 

 近年ではビッグクラブに完全移籍して、そこからレンタルに出される20歳前後の日本人選手が増えている。レアル・マドリードの久保建英(マジョルカ)、マンチェスター・シティの板倉滉(フローニンゲン)、同じく食野亮太郎(ハート・オブ・ミドロシアン)らがその例である。

 

 ただ、南野のように欧州主要リーグ以外の国の強豪で試合経験を積み、そして欧州CLの舞台で活躍するというのは、もっと流行になっていくかもしれない。実際、ベルギーリーグに移籍する傾向が強まっている。伊東純也が所属するゲンクは南野が在籍したザルツブルク、ナポリ、リバプールと同じグループに入った。もしリバプール戦で伊東が爆発していたら、彼にオファーが届いた可能性もゼロではない。

 

 かつてセルティックの中村俊輔が欧州CLのマンU戦でゴールを決めるなど、「主要リーグ以外の強豪」から欧州トップの舞台に挑戦するという流れはあった。セルティックで勝ち癖をつけることで自己の成長につなげたのだ。これはオーストリアで勝ち癖をつけてきた南野にも同じことが言えよう。

 

 欧州主要リーグ以外でもビッグクラブに通じている。南野が示した成功が広がっていくためにも、是が非でもリバプールで活躍してもらいたい。


◎バックナンバーはこちらから