(写真:大会連覇を達成したレゲセ。世界歴代3位の記録を持つ実力を見せつけた (c)東京マラソン財団)

 1日、東京オリンピックの日本代表選考を兼ねた東京マラソン2020が都庁前から東京駅前の行幸通りまでの42.195kmで行われた。優勝は2時間4分15秒のビルハヌ・レゲセ(エチオピア)。昨年に続き、大会連覇を達成した。日本人最高位は自らが持つ日本記録を塗り替える2時間5分29秒をマークした大迫傑(Nike)が4位に入った。大迫は東京オリンピック代表入りに大きく前進した。
 

 国内屈指の高速レースとして知られる東京マラソン。男子の部でハイペースなレース展開を制したのは前回王者のレゲセだった。

 

 例年は一般ランナー、観客で溢れるスタート地点の都庁前だが、今回は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けてエリートランナーのみの実施となった。沿道での応援の自粛を呼び掛けたとあって、人も少なく派手な演出もなく静かなスタートとなった。気温は11.7度と比較的暖かく、ランナーたちは春の穏やかな日差しを浴びながら駆け抜けた。

 

 今大会は東京オリンピックの日本代表選考を兼ねており、マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)で2枠が決まり、残り1枠を巡る争いが繰り広げられた。MGC3位で日本記録保持者の大迫は暫定トップに立っている。他の日本人選手が日本記録を塗り替えなければ代表切符を手にできるが、自らが日本記録にチャレンジし、ライバルたちにプレッシャーをかけることを選んだ。

 

(写真:井上<右から2番目>は序盤から先頭集団に食らいつき、積極的なレースを展開 (c)東京マラソン財団)

 ペースメーカーは大会記録、日本記録に分かれて設定された。井上大仁(MHPS)、大迫は先頭集団に加わる選択をし、設楽悠太(Honda)らは第2集団を選んだ。特に井上は集団の前方に位置し、プレスカンファレンスで「世界と戦うために必要なタイム」と2時間4分30秒を目標に掲げたように積極的な走りが光った。

 

 5km通過は14分32秒、10km通過は29分12秒と大会記録を上回るハイペースで先頭集団が走る。第2集団は日本記録を上回るペースだ。20kmを過ぎても井上と大迫のいる先頭集団が58分41秒と大会記録より、設楽ら日本人選手が中心の第2集団は59分1秒と日本記録より速いペースだった。

 

 中間点を過ぎたあたりから先頭集団が動きを見せる。一時は5km 14分40秒台で落ち着いていたペースが、20kmから25kmまでの5kmでは14分34秒とペースアップした。集団が縦長になり、日本勢は大迫、井上の順に遅れ始めた。

 

 ペースメーカーが離れる30km通過までの5kmラップは14分27秒と更にペースアップ。レゲセ、シサイ・レマ、アセファ・メングストゥというエチオピア勢が優勝争いを展開した。井上は5位集団を形成し、1時間28分28秒で日本記録を上回るペースで走った。後続の大迫、更には設楽なども日本記録よりも速いペースを刻んだ。

 

(写真:一度は離された大迫<前>だが、集団に追いつくと一気に抜き去った (c)東京マラソン財団)

 日本人トップ争いにも変動が起きた。32km過ぎに大迫が井上らの5位集団に追いつく。「ペースが遅く、きつそうだったのでチャレンジした」。苦しい表情を見せる井上を尻目に大迫は33km手前で前に出た。35km通過は大迫が1時間43分36秒、井上が1時間44分5秒。依然として日本記録を上回るペースだ。

 

 海外勢による優勝争いはレゲセが、39km手前で単独トップに立つと影をも踏ませぬ走りで東京駅前のフィニッシュテープを駆け抜けた。大会記録には17秒届かなかったが、2時間4分15秒をマークした。

 

 レース中に左足の付け根あたりに痛みを覚えたと言い、「勝つことに焦点を置いた」走りに切り替えた。世界3位の自己ベストを持つ前年王者の意地を見せた。本人によれば、東京オリンピックのエチオピア代表選考においても非常に大きい勝利だったという。

 

(写真:フィニッシュの瞬間、吠えた大迫。インタビューでは涙する場面も (c)東京マラソン財団)

 日本人トップに立った大迫は、力強い走りで東京の街並みを駆け抜けた。最後の直線で自らの持つ日本記録更新を確信し、沿道の声援に応える。ガッツポーズを繰り出しながら4位でフィニッシュ。叩き出した2時間4分29秒は日本記録を21秒塗り替えるものだった。

 

 4位賞金100万円に加え、日本新記録ボーナスの500万円を大会主催者の東京マラソン財団からゲット。さらに日本実業団陸上連合からの報奨金1億円も手にした。来週8日のびわ湖毎日マラソンに出場するランナーたちにもプレッシャーをかけ、「あとは待つだけ。自分自身のベストを尽くせた。一番近い位置にポジションを取ることができた」と胸を張った。

 

 日本陸上競技連盟の幹部も大迫の走りを高く評価した。瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーは「期待された通り走った。本当にすごい選手。MGCからの約半年間で努力した結果」と称えた。日本最速の称号を守った大迫は、東京オリンピックにまた一歩近づいた。

 

(文/杉浦泰介、写真提供:(c)東京マラソン財団)