古くは70年代初頭のアヤックス、最近ではバルセロナ。サッカーの世界には、時折、全世界のサッカー観に影響を与えるようなチームの出現がある。
 だが、同じ時代の同じリーグに複数の革命的存在が同居したことは、かつてなかった。グアルディオラのバルサがとてつもないサッカーを披露し始めた時、レアル・マドリードは“銀河系軍団”ではなくなっていた。逆に、ジダンたちが我が世の春を謳歌していた時、バルサのサッカーに見るべきところは多くなかった。
 もちろん、サッカーである以上、強いチームが負けることは多々ある。ただ、歴史上記録されてきた弱者の勝利は、概ね強者のいいところをすべて消すべく腐心した末に生まれたもので、戦う前の心構えが対等とは言い難かった。

 これがCLになれば、稀に王者と王者、負ける場面が想像しにくいチーム同士の対決も実現する。09年の決勝、バルセロナ対マンチェスターUはまさしくそうしたカードだった。予想に反した内容は一方的なものになってしまったが、この試合を境にバルサのスタイルに疑問符をつける人は激減した。

 ただ、いかにCLといえども、あれほど期待値の高い決戦はそうそう見られるものではない。

 ところが、今年はあの時の決勝に負けないほどの決戦が、ブンデスリーガで見られる。
 ドルトムントの獰猛なカウンターの衝撃については先週の本欄で書いた。しかし、その翌月に行われたマンチェスターC対バイエルンの試合も、負けず劣らずに衝撃的だった。バイエルンは、プレミア屈指の実力を誇るホームチームを相手に、ほとんど何もさせなかったのである。

 バルサ時代のペップのサッカーを、わたしは「活人剣」と表現したことがある。自分たちの魅力を存分に見せつけつつ、相手の良さをも引き出すようなところが、あの頃のバルサにはあった。それが、グアルディオラとバルサの魅力だとも思っていた。

 しかし、バイエルンでのペップは、故郷で作り上げたのとはまた違うスタイルを築き上げつつある。もっと重厚で、もっと破壊的。そして何より、バルサの監督に就任した時に比べると、比べ物にもならない速さで完成度を高めつつある。

 クロップ率いるドルトムントは、CL決勝での負けをバネに殻を破った。ペップ率いるバイエルンは、コンセプトを一新することでスーパーな存在になりつつある。そして、ツボにはまった時の両チームは、鳥肌が立つほどに強い。今季の彼らの対決は、クラシコより、マンチェスターやミラノダービーより、注目を集めることになるだろう。

 最初の決戦は11月23日。願わくば、ここでプレーするカガ……もとい、日本人選手が見たかった。

<この原稿は13年10月10日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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