健康増進、筋力アップに役立つニューアイテムの誕生だ。
 6月13日、日本医療機器産業連合会の30周年記念式典において、日本ホームヘルス機器協会に加盟している山本化学工業が新たに開発した“ソフトロボット”が発表された。ゴムラバーを活用して歩行をサポートするもので、医療、介護の現場で脚力の衰えがちな高齢者に効果を発揮することが期待されている。

「従来の歩行補助具は機械じかけで、見た目にも装着しているのが明らかでした。重量もあるため、本人の装着感も強い。今回、発表したソフトロボットは、その上からズボンも履けます。試着した方からは“着けている感じがしない”と好評です。もちろん、電気も必要ありませんから、いつでも、どこでも使えるのも魅力だと思います」

 山本富造社長が「今までありそうでなかった」と胸を張る“ゴムロボット”は2種類ある。ひとつは腰から足首にかけて足に沿わせるかたちで内側と外側からゴムラバーをつけたものだ。ゴムの伸縮性を生かし、ヒザを上げる動きを補う。

「日本人はO脚が多く、足の外側へと力が働きやすい体型になっています。そのため内外の筋力バランスが崩れ、内転筋が衰えてヒザが上がりにくくなる。これをゴムの反発力を使ってヒザを上がりやすくするとともに、筋力バランスを矯正することを目指しています」

 内側部分のゴムラバーはマジックテープで長さを変更でき、テンションを変えられる構造になっている。内側を引っ張ることで外へ外へと向かっていた足先が、まっすぐ向くように矯正される。その体勢で歩き続けることで足の内外の筋肉バランスが改善され、自力でもヒザが上がるようになるという仕組みだ。ラバーの長さを変えることで、各自の状態に合わせて装着できるのも利点である。

「長さだけでなく、ゴム素材の強さや厚みを変えることで年配の方だけでなく、幅広い年代にも応用できます」
 山本社長は他の用途として、女性向けのO脚矯正による美脚づくり、アスリートの筋力バランス調整などをあげる。
「何か特別なトレーニングを行う必要はありません。装着して日常生活を送る中で、自然と負荷がかかり、歩き方や筋力の内外差が整っていく。一般の方にも広く使ってもらえるものができたと感じています」

 歩く以前に入院中で身動きがとれない患者であっても、このソフトロボットには活躍の場がある。装着してベッドの上で膝を曲げ伸ばしすると、筋力低下防止にも役立つからだ。寝たままの状態であらかじめ負荷をかけておくことで、立ち上がってのリハビリが効率よく進められるという。

 もうひとつのソフトロボットは、足のつまさきから土ふまずの部分までキャップをかぶせ、足首から伸ばしたゴムラバーを着けて甲の部分を少し引っ張り上げるかたちで装着する。これにより、つま先を上向かせる効果が見込める。

「特に高齢者は足首を支える筋力が落ち、つま先が上がらないために少々の段差でも引っかかって転倒してしまう。転ぶのを恐れて出歩かなくなると、余計に筋力が低下して歩けなくなってしまうんです。これまでもつま先を上げる歩行補助具はありましたが、矯正する感覚が強くて実際に使用すると、かえって歩きにくいものも少なくありませんでした。我々の“ソフトロボット”は、使っている人が違和感をほとんど覚えないものになっています」

 こちらもゴムラバーはマジックテープで長さを調整できるため、各自の状態に応じて引っ張り上げる強さは変えられる。靴下の上から装着し、そのまま靴を履けるため、日常生活の中でつま先をあげて歩く習慣を取り戻せるのだ。

「つま先を上げると、脛の筋肉が張るのを感じるはずです。つま先が下がってしまうのは、この部分の筋肉が弱っているため。筋肉は伸縮を繰り返すことで鍛えられる。だからゴムラバーで軽い負荷をかけて歩くことで、自然とつま先を上げるだけの筋力を取り戻せるんです」

 今回発表した2種類は、この7月中に製品化される予定だ。ロボットといっても、いずれもかさばらずコンパクト。山本社長は老人ホームや高齢者の自宅でも収納や持ち運びがしやすく、かつ、健康に寄与する製品として普及を望んでいる。
「このソフトロボットの強みは歩くのが困難な状態な高齢者だけでなく、そうなる前の予防や筋力アップ、筋力バランスの調整など幅広い用途で活用できるところです。医療の現場でも予防医学に重点が置かれるようになってきており、その流れにも合致したものではないでしょうか」

 さらに山本化学工業では、ソフトロボット着用の効果を高めるための新製品も開発を進めている。それはウエストに巻く着圧ベルトだ。同社では既に太ももやふくらはぎ、足首など着圧を与え、血液循環を促す「メディカルバイオラバー」を発売し、好評を得ている。これを応用し、今度は着圧をかけることで体幹の筋肉をより活性化させるのだ。

「ウエスト部分を背中から脇腹、腹部へと向かって、後ろから前に締めることで腹部の内圧が上がります。すると体の軸、つまり体幹の筋肉を使って活動するようになる。びわこ成蹊スポーツ大と提携して実験した結果、体の中心を動かすため、消費カロリーもアップし、歩幅も伸びるというデータが出ました」
 体幹強化は多くのアスリートが取り組んでいるが、一般人でも、この部分の筋肉を活用するに越したことはない。特に筋力が落ちる高齢者はなおさらだ。

 ソフトロボットでヒザと足首を上げ、着圧ベルトで体幹の筋肉を使って歩く。年齢を重ねても誰もが元気に動ける世の中へ――。高齢化が加速する時代、山本化学工業は新たな領域へ大きな一歩を踏み出そうとしている。

 山本化学工業株式会社