ロンドン五輪に臨むなでしこジャパンのメンバー18人を発表した佐々木則夫監督の鼻息は荒かった。



「一番光っているメダルを目指して、選手、スタッフ一丸となって戦っている。そのなかでのメンバー選考。攻守にアクションするという我々のサッカーを熟知し、そして一人ひとりがポテンシャルのあるプレーを実践してくれる、そういう期待を持った選手。そして五輪だけではなく、その先を見据えたメンバー選考を私の考えたなかで追加させていただいた」



昨年の女子W杯を制したメンバーが中心となった。良性発作性頭位めまい症を克服し、先のスウェーデン遠征で約3カ月ぶりに代表復帰した澤穂希(INAC神戸)も順当に入った。

指揮官がサイドバックの貴重なバックアップである有吉佐織(日テレ)を外してまで、ケガ明けで注目された丸山桂里奈(大阪高槻)、岩渕真奈(日テレ)を“ジョーカー”として選出したのは多少なりとも驚きだった。



高瀬愛美(INAC神戸)ら若手も入って「次世代」も意識した構成にはなっているものの、佐々木体制の5年間で積み上げたサッカーを披露するためのメンバーにこだわったと言える。



世界一のなでしこが金メダル候補の一角になることは何の疑いもない。佐々木監督も「一番光っているメダルを目指して」と語っているように、そこに目標を置いているのは確かである。メディアの取り上げ方を見ても男子のU-23代表よりもなでしこの扱いのほうが大きく、金メダルへの世間の期待は高まる一方だ。



しかし、金メダルへの道のりは決して平坦ではない。昨年のW杯ではダークホースとして勝ち上がったが、今回はW杯王者としてマークされる存在となる。加えて「金メダルを獲らなければいけない」という選手たちの背中にのしかかってくるプレッシャーはW杯とは比較にならないだろう。



スウェーデン遠征では米国に1-4と大敗を喫した。スピードとパワーに圧倒され、なでしこらしくない単純なミスも多かった。復帰初戦の澤も本調子にはほど遠く、本大会に向けて不安を残した形となった。



あくまでトレーニングマッチであり、佐々木監督としてはテストの意味が大きかったとはいえ、日本に対して苦手意識を持っていた米国に自信を取り戻させたのは余計だったかもしれない。



病気明けの澤、ケガ明けの丸山、岩渕、そして岩清水梓(日テレ)のコンディションが本大会までにどれだけ回復するかという問題もある。



グループリーグ(F組)の相手はカナダ、スウェーデン、南アフリカ。FIFAランクでは3位の日本に次ぐ4位のスウェーデンが最大のライバルになるが、佐々木監督は初戦のカナダ戦を重視する。カナダと米国の親善試合を視察したうえで警戒感を口にした。



「カナダは(クリスティン・)シンクレアを中心にして、パワーのあるチーム。アメリカ相手に1-2と接戦に持っていけたのは集中した守備があったから。GKが非常に良いプレーヤーだったし、彼女を中心とした守備が、シンクレアを中心としたカウンター攻撃をアシストしていた。



五輪の第1戦、ここに“魔物”がいるということを僕は知らずに北京(五輪)で初戦、ニュージーランドとやった。そしたら“魔物”がいた。とにかく第1戦に良い形で入れさせたいと思っている」





いい形で初戦を消化できれば流れに乗っていく、と指揮官は読む。スウェーデンとは相性が良く、不気味とはいえ南アフリカもそこまで怖くはないはず。3グループに分かれた12チーム中8チーム(グループ3位の上位2カ国を含む)が準々決勝に駒を進めるだけに、グループリーグの戦いはさほど問題はないとみる。



いずれにせよヤマのひとつは準々決勝になるだろう。F組を1位で突破すればG組の2位との対戦になるため、米国かフランス、2位で抜ければE組の2位ということで英国、ブラジルのどちらかになるだろう。

米国が抜けているとはいえ、日本を含めてレベルの差はそこまで変わらないはず。ここで一度、ネジを巻いて試合に臨むことが肝要になる。



澤はメンバー発表会見後に取材対応し、「五輪での目標は?」と聞かれてこう返した。

「一番輝いているメダルと言いたいけど、簡単に勝てる試合はひとつもない。どの色でもいいのでメダルを取りたい」



現実は甘くはない。金メダルばかりに意識を向けると、自分たちの姿が見えなくなり、プレッシャーが強まってしまう怖れもある。経験のある澤は他のなでしこ選手たちにそうメッセージを送っているようだった。



佐々木なでしこの集大成。そして「最後の五輪」と言った澤の思い――。

4位で終わった北京五輪の悔しさは、きっとメダルを獲れば晴れる。メダルを獲得した際には、どの色であっても、惜しみない拍手をなでしこに送ってほしいものである。



(この連載は毎月第1、3木曜更新です)


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