18日、大相撲・元貴乃花親方の花田光司氏が東京大学で大学院生向けの講義に講師として登壇した。「日本相撲界のイノベーション」をテーマに、パワーポイントを使いながら約1時間半、講義を行った。花田氏は日本相撲協会の理事を約8年務め、30年以上も角界で生きてきた視点から、相撲界における組織の問題点を列挙した。さらにはセカンドキャリア教育・支援の必要性を説き、今後に向けての解決案を提示した。

 

 冒頭の約7分間、まずは花田氏の現役時代の映像を流した。終了後、花田氏は穏やかな語り口で「皆さん聞こえますか?」とマイクテスト。「よく声の通りが悪いと言われるので……おっしゃってください」と場を和ませてから、講義をスタートした。

 

 花田氏はサッカー界の組織図と相撲界の組織図を提示し、その違いを学生たちに説明してみせた。Jクラブと相撲部屋を組織図、収入内訳でも比較した。Jクラブは強化と経営が分業化されているが、相撲部屋は運営を親方1人が担う。これについて花田氏は「改善の余地がたくさんあります。Jクラブのように経営、広報、経理の専門家を入れることが今後の課題」と指摘した。

 

 サッカー界が日本サッカー協会を頂点にピラミッド化しているのに対し、相撲界は日本相撲協会(プロ)と日本相撲連盟(アマ)が分かれてしまっている。中央競技団体(NF)の機能を果たす日本サッカー協会のような組織が無いことを花田氏は問題視しているのだ。

 

 大相撲は他競技と比べても中卒・高卒の割合が高い。貴乃花部屋で多くの弟子たちを抱えた花田氏は経験談を語った。

「学歴がなくて関取になれなかった力士は再就職先を見つけるのは困難です。私はやりたいことを聞いて、料理の道に進みたいという子は料理学校に通わせたりしました」

 花田氏はNFがセカンドキャリア教育・支援を担うべきだと考えている。それが人材育成にも繋がるからだ。成功する保証がない中、中卒でのプロ入りはとても勇気のある決断である。セカンドキャリアが確立されていれば、早期入門のハードルも少しは低くなるはず、と花田氏は見る。

 

 相撲界は“若貴フィーバー”に沸いた時代ほどではないが、人気を少しずつ取り戻しつつある。それは近年の巡業日数の増加が物語っている。一方で懸念材料もある。花田氏が指摘するのは力士への負担増である。「真剣にやればやるほど、消耗度は高い」。2017年の年間スケジュールを例に挙げて、こう説明した。本場所は年6回、春夏秋冬の巡業があり、2月には大相撲トーナメントが開催される。本場所は計90日間、巡業日数は78日間にも及んだ。「シーズンオフはない」と花田氏は言い、「本場所を年4場所にするべきだと考えています。シーズンオフをつくる。身体を休めることも鍛錬です」とオフの必要性を訴えかけた。

 

(文・写真/杉浦泰介)